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5. 近づく距離
「翔さん、おはようございます! 起きて下さい!」
いつものようにベッドルームの扉を叩いて翔の起床を促す。だが美果は、最近の翔がこの起こし方では結局起きないことに、薄々気がついていた。
転倒しそうになったところを翔に支えられて助けてもらったのが、およそ二か月半前。あの後ドキドキしながらリビングに戻ってみたが、翔は普段と何も変わらない様子だった。ほんの数分前に愛おしげに抱きしめられたせいで美果はひどく緊張していたのに、翔があまりにもけろっとしているので『意識しすぎている自分が恥ずかしい』と密かに反省した。
それからしばらくの間は、大きな問題もなく家政婦業務をこなしてきたのだが――
今から約一週間ほど前。
美果はその日、朝から大失敗をしてしまった。あり得ないミスをしたことを、一週間経った今も猛反省中である。
「しょーさん! 七時半すぎましたよ!」
大きな声で扉に向かって叫び続ける。しかし翔からの応答はない。
「もう……入っちゃいますからね!」
一応声をかけて、美果は今日もドアのレバーを押し下げる。
一週間前――その日もいつものように出勤した美果は、何気なくダイニングテーブルの上を見て、そこに五本の細長い小瓶が並べられていることに気がついた。
その瓶は天ケ瀬百貨店の地下食品売り場に入る『だし専門店』が取り扱う液体だしの新商品で、テーブルの上のメモには翔の字で『これでだし巻き玉子を作ると美味いらしい』と美果へのメッセージが綴ってあった。
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