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麦は建物の植え込み前に、ひっそりと立っていた。
不動産屋の名前が書かれた白い車が走り去っていった。
僕は自転車を降りて、麦に近付いた。
麦は紫色の混ざったストールに顎を埋めていた。
見慣れた細身のジーンズ。
見慣れたコンバースのスニーカー。
つい一時間前まで一緒にいたのだし。
二時間ほど前には、一緒に朝ごはんを食べた。
麦は毎朝カッテージチーズとりんごを食べる。
僕の家の冷蔵庫には、3分の1ばかり中味の残ったカッテージチーズの容器が入っている。
麦が残りを食べることはない。
僕たちは、今日、別れる。
僕たちは連れだって駅へと向かった。
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