ファーストキスは血の味わい

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「おまえにとっての愛が体を繋げるってことを含むんなら、オレの体はそういう作りじゃねぇんだから諦めてくれ。オレは、自分に理解出来ねぇ愛をおまえにゃ語らねぇ。オレからおまえに言えるのは事実だけ。おまえの全てはオレのもので、オレの全てはおまえのもの。おまえさえいれば、オレは他に何もいらない」  大事なことだから、なのか、さっき言ったばかりの同じ言葉を彼は繰り返した。  これまでに出会った、お金や血だけが目当ての女性達には、いくらでも作り物の笑顔や言葉を向けてきたんだろうに。わたしにだけは、うわべだけの愛を語らない。 「それが許せねぇっていうんなら、オレ達に対等の関係は成立しねぇ。おまえの前から消えてやるよ」 「……未練、ないの? わたしに……それと、わたしの、血に」 「ないわけがねぇだろう。だが、当人が望まねぇ関係ってんならオレは続けねぇ。今すぐこの場を立ち去って、今後はおまえに見えねぇ場所で生きていく」  そうだった。こいつはクソガキで最低だけど、同時に誇り高い吸血鬼。誰も害さず生き続けて、自分の生まれを……お母さんが、お父さんを愛した結果生まれた自分を、正当性ある命なんだと証明する。異端だって胸を張って生きていくんだって目標を持ってる。わたしは、そんな心と生き方に惚れたんだって、忘れそうになっていた。 「許すわよ、もぉ……。今までのも、これからのも、全部……」  岬が言葉足らずだっていうのは大前提として、今まで何年も悩み続けていた片想いが、最初っから両想いだったなんて。わたしってば……可哀想じゃなくて、案外、果報者だったのね。  親も友達もお金も、わたしにはとにかくなんにもない。でも、あなただけはいてくれるから、他には何もいらない。 「せっかくだし、血が止まるまでは気が済むまで吸ったら?」  恥ずかしいけど、それを精いっぱい隠して、虚勢を張って。わたしは自分の口端の傷を人差し指で示した。 「じゃ、遠慮なく」  そうそう、この遠慮のなさ、好き勝手。これこそわたしの好きなオレ様男の岬君、その人なんですよ。でもね……。 「う~……痛ぁい……滲みるよぉ~」 「つくづく、色気のねぇ女……」 「うっさいわ! あんたが求めんなって言ったんでしょうが!」  体の繋がりを自分に求めるなって言っておいて、なんつーダブルスタンダードなのよっ。
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