クリスマスイブのひとりぼっち

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クリスマスイブのひとりぼっち

 クリスマスイブの出勤。本来だったらわたしの固定出勤日じゃなかったのに、「私用のため」に休む従業員が多すぎて、何の予定もないわたしが代わりに働かざるを得なかった。  帰りがけ、わたしはうっかり、サンタとトナカイを模したカップケーキをひとつずつ買ってしまった。見た目が違うだけの同じ商品で、一緒に食べてくれる誰かがいるわけでもないのに馬鹿みたい。食べてくれないとしても岬とすら約束していないから、今日を狙ってわざわざ来てくれるほど気の利いた男でもなし。会える可能性は低いだろうな。  帰宅した我が家は、今日だけは彼好みの真っ暗な空間にしたくて出かける前にカーテンだけでなく雨戸まで閉めておいた。想像通り、そこに岬の姿はないのだった。ですよねー。  意地を張らないで、今日だけは、一緒にいて欲しいって頼んでおけばよかったかな。  居間の隅に置いてある独り身サイズの小さなテーブルに、買ってきたカップケーキを置いて、わたしは畳の上に仰向けに転がった。今日の仕事も疲れたなぁ、って、全身で重力を感じる。  好きな人はいるけど、恋人じゃない。親もいないし、子供の頃に友達だって作り損ねた。最後のは自分の努力不足もあるから仕方なさはあるけれど。  ここで、わたしのお勤め先の利点、最後のひとつ。  確かに、嫌なお客さんに遭遇することだってある。でも来店するお客さんが百人だとしたら、嫌なお客さんなんて一人いるかいないかってくらいで、九十九人はまともに接してくれる。  何なら、ちょっとしたことで、それも店員がマニュアル通り当たり前にするべきことをしただけで、「ありがとう」って声掛けしてくれる人だって少なくない。  わたしの生活はあまりに孤独すぎて、ひとりぼっちで、寂しくて。辛いことだってあるけれど、店員とお客さんって関係でしかなくっても。毎日不特定多数の、数えきれないほど多くの人と触れられるこの仕事は、わたしの心の拠り所だったんだ。  だけど……今日、クリスマスケーキやローストチキンを買って帰ったお客さんは今頃、誰かと楽しくそれを囲んで味わって、おいしい時間を過ごしているのかな。もちろん、業種柄、単身者のお客さんだって多いんだからみんながみんなそうであるわけじゃないんでしょうけど……。  心も体もなんだか疲れてしまって、せっかくのカップケーキも出しっぱなしのまま、私は畳の上で寝落ちしてしまった。十二月の寒い室内で、布団もかけないで。布団をかけてくれるような誰かもいないから、風邪をひいてしまうかもしれない。  まぁ、明日のクリスマス当日だけは臨時出勤は断固拒否して休日を死守したから。一日くらいなら、軽く風邪をひいたって市販薬で快復出来る、でしょ……、……。
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