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ファーストキスは血の味わい
「そんなに言うなら、試そうじゃねぇか」
試すって、何をよ、って、たったそれだけの言葉を口にする暇さえなかった。
「んっ!?」
岬は迷いなく、わたしの唇に自分のそれを押し当てた。あんまりにも冷たい唇に、寒気がする、体の反応としてはそれが自然なはず。だけど心の方がかぁっと燃え上がるように熱くってそれを塗り替えてしまう。
「……い、っったああぁぁ~~っ!」
せっかくのファーストキスを味わうより先に、口の中に広がった鉄の味に、わたしを悲鳴をあげていた。全力で。その声を塞ぐように、今度は岬が口内を舌でかき混ぜる。気持ち良いとか嬉しいとかロマンチックな気分とか、そんな気に一切なれない。唇の端っこの痛さで頭がパニック状態!
「なんっっってことすんのよぉ! バカ、クソガキ、サイッッテー!」
「こうやって吸う血が一番美味ぇんだと、同種族の知り合いから聞いてたんでな。いずれ試そうと思ってたんだが、事実だったみたいだな」
あろうことかこの最低男、自慢の牙でわたしの唇の端を裂いて出血させて、新鮮なその傷口から血を舐めていたらしい。もう衝撃的すぎて怒りすら吹き飛んじゃって、
「知ってたのに、今まで試したことなかったわけ?」
間抜けなことに、そんな疑問を投げかけてしまっていた。
「どうとも思ってねぇ相手にそれをしたって美味くねぇんだとよ。だったらおまえで試す他に誰もいねぇだろうよ」
「……はい?」
「言ったじゃねぇか。おまえさえいれば、オレは他に何もいらないって」
世界一美味いおまえの血さえあれば、オレは他に何もいらない。
……ええ、確かに聞きましたよ? 何度も頭の中で反芻してきたから、忘れるはずがない。
「おまえの血、って言ったでしょ?」
「おまえの全てはオレのものってこたぁ、オレの全てはおまえのものってのがイコールだろ。そもそも、何の興味もねぇ血が美味いだけの女をこのオレがわざわざ守ってやると思うのか?」
「……、……いや、そんな解釈、直接言われる前に結びつくわけないでしょ? そういう意味だったんなら最初っから言いなさいよ!」
「言わなくたって常識だろ? おまえの全てをよこせって言うなら、オレの全てはおまえに捧げる。そうでなけりゃサイテーのクソ野郎になるじゃねぇか」
自分が最低男だって自覚ないの? どこまで自己評価高いのよって、それだって驚きではあるんだけど。
「じゃ、じゃあ……わたしのこと、好き、……なの?」
よせばいいのに、曖昧にしておいた方が平和なことだって世の中ごまんとあるのに。調子に乗って、そんなことを訊いてしまったのだ。
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