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吸血鬼の初襲撃
「ようやく探し当てたぜ。めでたく、オレが一番乗りのようだな」
岬は、ある日突然現れた。わたしも日付の間隔の曖昧になるような生き方をしてきたから、彼との付き合いが何年くらいになるのかわからなくなっちゃった。誕生日を祝う習慣でもあれば別だったでしょうけど、わたしは自分のそれを知らないし、岬は「忘れた」って、教えてくれないし。
「おまえの血はオレ達種族にとっちゃこの世で一番の美味だ。百年前まで蔓延ってたニセモノどもと違って、おまえの血に流れる『魔力の源泉』だけは、紛うことなきホンモノだからだ」
これまでの話で想像はついていたでしょうけど、岬はど定番の吸血鬼。人間から血を吸って生きている魔物ってやつね。
吸血鬼が人間の血を吸うのは、その血に流れている魔力を吸血することによって自分の魔力に還元するから。魔物っていうのは人間と違って、栄養ではなく魔力で生体活動を維持しているとか。
わたし、藤崎貴子の体に流れる血は、この世で唯一「魔力が無限に湧き続ける」んだと彼は言う。吸血鬼にとって「魔力をたっぷり含んだ血」っていうのはそれはそれはありがた~いもので、それが無限ともなればそりゃあさぞかし最高の味なんでしょうね。
「他のヴァンパイアに血を吸われないようにオレがおまえを守ってやる。その対価にオレに血を提供しろ」
って、初対面から有無を言わせぬ要求をかましてくれたのだった。
そこでわたしも断ればいいものの、まぁ試しに吸わせてみましょうかってオッケーしちゃったっていうわけ。
なんでかって? それはですねぇ……恥ずかしながら。
この岬ときたら……顔が良くって。一目ぼれしちゃったんです、わたし。惚れた弱みってやつですよ。
あの日と同じように、わたしの腕にかじりついて血を吸っている、その顔。普段は決して媚びず、笑顔ひとつ見せてくれないこいつが、恍惚と、わたしの血を味わっている。「世界一美味い」ものを口にしている、蕩けるような瞳。
血管に達するほど噛みつかれて、痛くはないのかって? 「はじめて」はけっこう痛かったんだけど、数回で案外慣れてしまって。
好きな男が目の前で、夢中で吸い付いてわたしを味わっている。その顔をみているひと時は私にとってもたまらず「おいしい時間」で、快楽すら感じてたりもする。わたしって、もしか、マゾヒストの素質でもあるのかしら?
そういうわけで、一方的な要求に応えるようでいて、案外わたしと岬の関係はギブアンドテイクが成立しているのだった。
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