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岬の独白
オレはヴァンパイアの父と人間の母から生まれた。そういう組み合わせの混血種族をダムピールという。
ダムピールは人間の体に、ヴァンパイアを殺せる抗体を持つ血が流れている。しかし、一度死ぬとヴァンパイアとして生まれ変わり、人間には戻れない。人間のまま死にたいのならヴァンパイアを殺す時同様、儀式をしなければならない。心臓を銀の弾丸で撃ち抜く、あるいは木の杭でハンマーによって念入りに心臓を貫く。それが儀式。
ダムピールとして生まれた人間は、ほぼ例外なくそれを人間社会には隠して生きている。ヴァンパイアは自分の生存の為、人間を襲って血を吸わなければならないからだ。
別に殺すほど吸い尽くさなければならないわけでもないんだが、卵が先か鶏が先か……ヴァンパイア、あるいはダムピールだからと迫害されてきた時代の恨みを込めて、人間への報復的に、襲った人間を殺してしまうヴァンパイアが多い。
そうして迫害は加速するばかりで衰えることはない。人間を守るためのヴァンパイアハンターも戦いの手口をどんどん報復的に、苛烈にしていく。
「そんな世界に、ダムピールにしてしまうことがわかった上で、私はあなたを産んだの。だからあなたには何の罪もない。罪があるとしたら、それはあなたを産むと決めた私の選択の方なのよ」
母さんは微笑みながら、オレにそう言った。自分に罪があると言いながら、その笑みは誇りに満ちていた。
異端であるとしたって、母さんにとってオレは、愛した男との間に授かったかけがえのない息子で、人間社会で忌避される存在だとしたってそこに何の引け目もないから。
異端になると承知の上で産むことは、本当に罪なのだろうか。母さんはこんなにも、心からオレを愛してくれたのに。
大体からして、人間だって自分が生きる為に他の生き物の肉を食うくせに。工夫と倹約さえすれば、必要最低限の血を吸うだけで、ヴァンパイアは何も殺さず生きていけるっていうのに、よくも異種族を有害生物みたいに貶められたもんだ。
ゆえに、オレは決めたんだ。オレの生まれは罪ではないと証明するために、異端であろうがどんな人間より誇り高く生きるのだと。
同胞のヴァンパイアどもがどれだけ生き汚く、人間を害しようが、オレはそれに追従しない。
夜道で見知らぬ人間を襲って血をいただくなんてしない。このオレに惚れさせて、喜んで血を差し出すように誘導してきたんだ。
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