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一方通行の両想い
てなわけで、わたしもまんまと籠絡されちゃったひとりなのでした。
「それにしたっておまえほど容易い人間も他にいなかったけどな」
って、にこりともせず岬は呆れる。
最初こそ顔面一発で一目ぼれしちゃったわたしだけど、今は違う。異端だろうが誇りを持って、誰に恥じることもなく生きると背筋をしゃんと伸ばした生きざま。見た目は少年なのに凛々しいその立ち姿に、わたしはちゃんと惚れ直したんだ。
「オレが人を害さず生き続けられるなら、あのどアホ兄にオレ達の生まれの正当も示せるからな」
「兄?」
「なんでもねぇ。オレだけの話だから気にするな」
父と母だけでなく兄? がいるらしいってぽろり、溢したのは、おそらくその一回きりだったと思う。
吸血鬼っていうのは種の存続のため、本能的に人間の女を襲って子供を産ませようとする。岬のご両親は同意の上で彼を産んだのだけど、ほとんどの吸血鬼はまぁ、夜道で女を襲って、って行動に出ざるを得ない。
それを回避するために、岬は精通前の体で自ら首をつって死んで、ダムピールから吸血鬼になったらしい。子孫を残さなきゃって本能も、それが不可能な個体にはカンケーないから。
その弊害として、岬は無性愛者だ。性愛っていうのは性欲と直結しているものだから、わたしがいくら恋しても、彼はわたしをひとりの女として愛することは決してない。
だけど、ね。
「ヴァンパイアハンターどもから目を着けられずに生きるには、何かと魔力を消耗するものでな……まず、厄介なのがこの髪だ」
岬は、長く伸ばして後ろで縛った緑色の髪を手にぼやく。髪の束を持って自分の見える方へ引っ張って、しかしそれを見る目は嘆きにばかり染まっているわけじゃない。魔力の色は父から受け継いだ、彼の守るべき誇りのひとつだから。
「魔力は髪か瞳のどちらかに、固有の色として表れる。瞳の方に表れたなら、黒色のコンタクトレンズで覆ってしまえば目立たず市中を歩けるが、髪だと魔術で覆って隠すくらいしか手段がない。そのためだけに常に魔力を浪費しなけりゃならねぇ」
人間が染髪するみたいに髪を黒く染めたら? っていうわけにいかないのは、ハンターとやり合う際に、コンタクトレンズならその場で外せるけど、染髪しちゃったらその場ですぐ落とすなんて出来ないからだ。
「かつては魔力のやりくりにもひと苦労だったが、おまえに出会ってからはその必要がなくなった。まるで体に羽が生えたように快適だ」
そう言ってわたしを見つめる彼の目は、確かに「わたしという女に恋する」表情じゃない。でも、わたし自身じゃないとしても、彼はわたしの血にベタ惚れなのだ。
「だから……世界一美味いおまえの血さえあれば、オレは他に何もいらない」
岬にとって、わたしはこの世で唯一の存在。その事実があるから、わたしは一生涯、一方通行の恋心だって悲嘆しないで、こうして彼を招き入れることが出来るんだ。
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