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十五歳の憂鬱
十一月。残念ながらわたしの勤め先のスーパーの売り場は、少々退屈な時期となる。
これが雑貨店とかなら十一月どころかハロウィンも終わる前からクリスマス商戦の小物が並び始めたりもするけど、さすがに食品類はクリスマス直前にならないと売り出しにならない。デザートコーナーは通常商品が並ぶだけで愛嬌が足りない。
まぁ、見目愛らしさだけがスイーツの存在意義ってわけでもなし。今日も品出しでデザートを並べながら、気が向いたら何か買って帰ろうかなって考えていた。
「そういえばさぁ、藤崎ちゃんってどこの高校通ってんだっけ?」
同僚の学生バイトの男子。名前は忘れたけど、店員は誰もが胸元に名札をつけているからそれを見ればわかる。小川君か。彼にとっては何気ない世間話だけど、わたしは舌の上ににがぁ~い味が広がっていくのを感じていた。
その苦みをどうにかしたくて、思わず、ひとりで食べるにはちょっと負担なチーズケーキのホールを買って帰ってしまった。
岬が現れるのはいつでも突然で、今日もいるとは知らずに帰ったから、ただいまとは言わなかった。言ったとしても、奴は座布団三枚を縦に並べて、真っ暗な部屋で昼寝中。いや、彼にとっては夜に起きているのが生態として通常なのだから、昼に寝ていたって「昼寝」って言うのは不適切かもしれない。
そういうわけで、彼は就寝中なのだが。……なんとなくの気の迷いで、わたしは彼の横に添い寝してみた。
吸血鬼には体温がない。吐息が触れそうな距離感で密接しているというのに、伝わってくるのはひんやりとした冷気。十一月っていうと決して温暖ではないから、さっきまでなんともなかったというのに、わたしは寒気を感じてぶるりと震えあがってしまった。
「……なにやってんだ?」
「……別に」
その震動でも伝わったのか、怪訝な顔で岬が目を開けた。わたしは頭を振って立ち上がる。
小さなアパートの小さな居間のテーブルに、買ってきたチーズケーキを置く。岬は液体しか口に出来ないから、せっかくホールケーキがあったって一緒に食べない。なんだかな。自分しかいない時に食べるチーズケーキと、目の前にいるのに一緒に食べてくれない人を見ながら食べるのとで、味が変わるはずもないのに。どうして味気なく感じちゃうんだろう。
「ぼちぼち、別の町に引っ越そうと思うの。同じ店に三年いるとね、そろそろ勘付かれそうなのよ。わたしの時が十五歳のまま止まってるのにね」
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