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年賀状の余白
僕は兎の横にぽっかり空いた余白を眺め、唸っていた。
新年の挨拶、近況報告、怪獣みたいな不細工な兎の絵。彼女への年賀状はほぼ完成したが、まだ何か書くスペースがある。
年に一度だけ使う筆ペンを机の上に放り出して、ひどい寝ぐせの頭を掻く。
絵心のない兎の絵をもう1匹書いてもいいが、それは勿体ない気がする。
ため息をつきながら、クッションを枕にして床に寝そべった。
宛名は、橋本あずさ。
年賀状を送る相手は年々減っていき、今年はとうとう彼女のだけになっていた。
中1のときに同じクラスだった彼女は、その年の冬休みにアメリカの学校に転校した。
それ以来、時々スマホでメッセ―ジのやり取りをしている。
スマホでやり取りをしているのだから、わざわざ年賀状は送らなくていいのかもしれない。
しかし、僕はどうしても彼女に年賀状を送りたかった。
彼女がアメリカに引っ越す前日の帰り道。彼女が独り言のように呟いた言葉を忘れられないからだ。
「アメリカに行ったら、もう誰からも年賀状が届かなくなるのかな?」
あまりにも悲しそうな顔で呟くから、反射的に「僕が送るよ」と言った。
それを聞いた彼女は、宝石のように目を輝かせ、嬉しそうに頬を赤らめた。
その顔を見て、なぜか心臓の鼓動が早まり、僕は彼女から目を逸らした。
その時は、どうしてこんなに胸が痛くて苦しいのか分からなかった。
その答えを知ったのは、彼女と会えなくなって随分と時が経ってからだ。
中1で初めて出会ってから、僕は彼女が好きだった。
あれから2年経って、中3になった今でも変わらない。
しかし、告白のタイミングをすっかり見失って、彼女からたまに送られてくるアメリカでの楽しそうな写真を眺めるくらいしかできなかった。
全く違う環境で暮らす人に、「好きだ」と想いを伝えるのは難しい。
彼女が今何をしていて、一体誰を想っているのか僕には全く分からないから。
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