はぐれ伝説ガール

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はぐれ伝説ガール

 四面鏡張りの広い部屋。私を含む四十八名の女性が同じポーズを決めている。 「揃ってないわよ。そんなんじゃ全然ダメ。デビューなんて三千年先になるわよ。あなたたちは、四十八人で一人なのよ」 「「はい、ヨローナ先生!」」  伝説になりたい。その一心で、デビューを控えた私たちは厳しい練習に励んでいる。綺麗で魅惑的で官能的。これが私にはなかなか難しい。 ***  私がスカウトされたのは、地元大阪。それもかなりの下町。  スカウトにきた頭頂部の寂しいおじさんは、コンビニの駐車場でダチと駄弁っていた、いや友達と談笑していた私にこう言った。 「君は一万年に一人の逸材だ」 「はぁ? 何言うてんねん、このオッサン」  私は笑い飛ばしたが、おじさんの熱意に負ける形で加わった。 ***  とはいえもともと私は下町育ちのガサツな部類。綺麗で魅惑的で官能的なしぐさなどできるわけもない。  まぁそこはアイドルの卵。何とか模倣でカバーできたが、問題は言葉遣いだ。せっかく叩き込まれた標準語なんて、いざせりふの練習となればたちまち頭から抜け落ちてしまう。 「うち、綺麗? なぁ、綺麗やんなぁ? いやー、そんなん言われると照れるやん。ほら、飴ちゃんあげるわ!」  ついついアドリブを加えてしまい、私はいつもヨローナ先生に叱られる。 ***  日を追うごとに厳しさを増す練習にくじけそうになっていた頃、私はとうとうヨローナ先生の呼び出しを受けた。 「やはり、彼の腕は確かだったようね」 「は、はぁ……」  彼というのは、私をスカウトしてくれたおじさんのことだ。 「ってか、うち……いや私、クビになるんですよね」 「そうね、グループとしてはクビね」  そこでヨローナ先生は言葉を切ってから、私にウインクしてみせた。私はその美しさにドキッとしてしまう。 「あなたには、ソロデビューしてもらうわ」 ***  それからメイク室に連れて行かれた私は、これまでとは全く違う姿に変身させられた。  胸までの長い髪はばっさりと切ってカーラーで巻き、清楚系の服装はヒョウ柄の派手目のものに着替え、メイクもナチュラル系から少し映えるものになった。  どんどん変わっていく鏡の中の自分に驚きを隠せない。何だか新鮮なようだが、元から私の中に備わっていた素質が解放されていくような、不思議な気分。  すっかり変身した私は、ヨローナ先生の前に立つ。 「あの……これから私はどういうふうに活動すればいいのでしょうか」  するとヨローナ先生はにっこりと笑って言った。 「もうあなたはその窮屈な言葉遣いで話さなくていいのよ。今からあなたは、オバタリアンなのだから」
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