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車を走らせ20分、目的の組織に着いた。 「廃工場か。不気味と言ったらありゃしない」 山本が呟く。 外壁は白に統一、屋上には銀のタンクがあり、使われなくなってそのまま置いてあるのだろう。 「元々ここは研究所としても使われてて、一時期はこの大きな工場に人がぎゅうぎゅう詰めになって研究したり薬品を作ったりしていたそうですよ」 如月が説明したその光景を想像し、俺はある事を思い出す。 「50年前に起きた、集団食中毒テロ事件の現場か」 「正解です。総員1246人の約8割が食堂で出している病原菌の入ったカレーを食べ、食中毒にかかり死亡した。原因は部外者がカレーの調理で使う器具に病原菌を大量に付着させたことが原因。動機は複雑で、ここの工場の人は毎日夜遅くに帰るため、近所の人が「車の音がうるさい」「声がうるさくて起きてしまう」という苦情が会社に毎日届いていた。会社は注意するも、一向に改善の傾向は見られない。犯人の部外者は工場の近所に住み、又妻子持ちで、「子供が毎晩起きて泣いてしまう」という苦情があった。知的障害を持っていた彼は、そこで工場で働く人たちを大量に殺せばいなくなるのではないかと言う思考に至った。そして1973年9月23日、深夜2時。研究所では一歩間違えれば死に至る薬品を研究していた事を犯人は毎日工場員から盗み聞きしていた為、場所や瓶の開け方も全て知っていた。そして食堂に潜入し、調理器具に塗りたくり、あとは最初に説明した通りです。その後すぐに廃工場となり、病原菌の消毒はしてあります。薬品も全て撤去済みで、残っているのは建物だけです」 いつもの足りない情報とは一変、全て詳しく説明してくれた。 「それ、誰が調べあげたんだ」 山本も同じ気持ちだったようで、如月に聞く。 「統一官の天羽楽さんです。スパイ課で一番腕が立って、誰もが憧れるあの暗黒の暗殺者(あんこくのあさしん)」 如月が目を輝かせて言った。 憧れなのだろう。 「暗黒の暗殺者は誰がつけた。多分、あいつそんな称号いらないって言うぞ」 俺は思わず声を出す。 「え…まさか」 如月が口を抑える。 「同期だ。俺も山本も、いずれ統一官になったら一緒にお前を教育するかな」
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