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文字の世界はまるで星空だ。
無数にある言葉を繋いで文章を作り、それが様々な形を作る。
時には人に、時には神に。獣や概念にもなり得るのだ。夜空を彩る星座の様にも感じるだろう。
「物書きってのは夜空を歩き回ってるのさ。星を繋いで星座を作るかのように文字を繋いで物語を作る」
澤が得意げに語ると千葉は首を傾げた。
「どうして夜空なのさ。言っている意味はわかるが他のものでも良いんじゃないのか?」
「小説を書いてみればわかるよ。最初は暗闇から始まるんだ。星を・・・・・・文字を見つけるたびに輝き出し、全てを繋いだ頃には光に包まれてる」
「じゃあ今のキミは暗闇を歩いているんだね」
そう言いながら千葉は澤の目の前にあるモニターを覗き込む。
一文字も書かれていない白紙のページで入力カーソルが点滅していた。
カフェのテラス席にいるというのに澤はコーヒーを一口も飲んでいない。
千葉の言う通り澤はまだ夜空を歩き出せてないようだ。
「難しいからこそ面白いんだよ、創作ってやつは」
それっぽいことを言いながらも澤の手は動かない。手よりも先に頭を動かさなければいけないのだが、どうしてもアイデアがまとまらないようである。
「煮詰まってるみたいだね」
茶化すように千葉が呟くと澤はため息をついてからスマートフォンを取り出した。
「はぁ・・・・・・時には煮詰まることもあるさ。そう言う時は自分以外の創作に触れるんだ」
「つまり、作り出す側から消費する側に回るってことか」
「半分正解で半分不正解。物語は楽しんでも消費されない」
そう答えた澤はお気に入りの作家を検索する。
自分が小説を書くうえで参考にしている作家。もちろんまるっきり真似をしているわけではない。ただそこに尊敬が存在するという話である。
同じように創作という道を歩き、壁にぶつかりながらも進み続ける作家だ。
スマートフォンに視線を落とす澤に千葉が問いかける。
「それでどんな作家の作品を読んでるんだい?」
「この人は文字の繋ぎ方が上手いんだ。自由なのに道筋があって創作意欲を刺激される」
「へぇ、キミの言葉を借りるなら夜空を探索するのが上手いってところかい?」
「そうだな。探索よりもピッタリな言葉があるよ」
澤はそう言いながら口角を憎たらしく上げた。
その表情に面倒さを感じながらも千葉が聞き返す。
「ピッタリな言葉って?」
「夜空の散歩者。文字の夜空を歩くように文字を繋いで色気のある物語を書く人なのさ。そこまでたどり着くのにどれほどの文字数を積み重ねたのか・・・・・・まだ背中は見えないよ」
その言葉を聞いた千葉は最後の疑問を投げかけた。
「それで、その作家の名前は?」
すると澤はようやくコーヒーを口にしてこう答える。
「さぁ、自分で見つけてみなよ。夜空を散歩していれば見つかるさ。間違いなくこの世界に生きているからね」
テラス席から見える空は青から橙に近づいていた。
もうすぐ夜が来る。歩き出せば星も月も、夜空を歩く作家も見つかるだろう。
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