どうってことない

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 雨はまだ降っている。  久幸は新幹線の窓からぼんやりと流れ去って行く景色を眺めていた。  そんな久幸の顔が歪む。苦痛に耐えているような表情だ。 「ちくしょう、何でこんな、次から次へと」  久幸は顔を伏せた。何かをこらえるかのようにそのまま動かない。  しばらくして顔を上げると、外の景色を再び見る。その表情はいつもの自信ありげなものになっていた。 「バカ野郎、これくらいのこと、どうってことない」  とある地方の駅から、久幸がしわくちゃの柄の悪いシャツ姿で出てきてタクシー乗り場へと向かった。  小雨の中、久幸が乗ったタクシーは街の中へと走り出す。  病院に着いたタクシーから降りると、久幸は建物の中へと急ぎ足に歩いていった。 「河口と申します。母の河口弘子が事故でここに運ばれて手術を受けたと聞いてきたのですが」  受付で尋ねた。 「お待ちください」  受付の女性が調べる。  病室の番号を聞き、久幸は急ぎ足でエレベーターに向かい乗り込んだ。  受付近くのロビーの椅子に一組の男女が座って、エレベーターに乗り込む久幸の姿を見ていた。 「あ、河口さんだ」  若い女性が言った。 「あの人が?」  女性と並んでいる若い男が同じように久幸の姿を見ている。 「そう。ね、格好いいでしょ?」 「うん」 「あなたのお兄さんになるかもしれない人なのよ」  女性は少し照れたように言った。  若くて爽やかな感じの男は、以前、菜々実の家を訪れた男だった。 「私達も行きましょう」  二人は立ち上がる。
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