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「今日はお祝いにパーっとやりませんか?」
久幸を先頭に、先のプロジェクトに関わっていた者たちの集団がビルから出てきて、その中にいた松下が久幸に言った。
「私ダメ。今日は用事がある」
久幸がものを言う前に、近くにいた有希が言った。
有希は若いながらも利発で、素晴らしいアイデアを生み出す才能にあふれていて、久幸もその能力と人柄を買っていた。
「俺も今日はダメなんだ」
久幸が言う。
「明日やろう」
同じプロジェクトチームで、幸久の補佐的な役割を担っている森が言った。
「よし、部長も呼んでパーッと派手にやるか」
「よっしゃ」
松下が拳を突き上げる仕草をした。
やがて集団は別れの言葉を交わして幾つかの小さい集団となり、夕闇の通りに散っていった。
久幸は松下と並んで歩いた。
「お前、今日は暇か?」
「え? はい」
「どこかにドライブに行こう」
「これからですか?」
「実はさ、俺、車を買ったんだ。慣らし運転で今日、乗ってきてる」
「それなら彼女を誘って行って下さいよ。バージンシートに座るのが俺じゃマズいでしょ。それとも下見にでも行くんですか?」
「女の子を助手席に乗せてドライブに行くことに憧れていたんだけど、乗ってもらう前に振られちまった」
「ええ! あの滅茶苦茶綺麗な人に? でも、河口さんを振っちゃうなんて信じられないっすよ」
「だから付き合え」
「遠慮させてください」
「私が行きます」
突然の声に、久幸と松下は驚いて振り向いた。
「何だ、お前いたの?」
二人の後ろでにっこりと微笑んでいるのは有希。
「先輩、ぜひ私を助手席に乗せて下さい」
「お前、今日は用事があるって言ってたじゃん」
松下が突っ込む。
「たった今、なくなりました。先輩、お願いします。何なら今すぐに先輩の彼女にだってなります」
「何だ、お前」
「悪い、今、そういう気分じゃないんだ。やっぱり一人で帰るよ」
「せんぱーい」
「明日の飲み会、楽しみにしているよ」
久幸は後ろ手に手を振り、松下と有希を残して去って行った。
松下と有希はその姿が見えなくなるまで見送る。
久幸の姿が見えなくなると、二人はがばっと向き合った。
「何だ、お前」
「あんたこそ何よ。変な事ばっかり言って」
「変な事? いくら河口さんのことが好きだっていったってなあ」
「絶好のチャンスだったのにー!」
「いい加減にしろ」
その時、路地から大きな排気音を響かせて、色は地味だが姿が派手なスーパーカーが現れる。運転しているのは久幸。
久幸の運転する車は大通りに出て走り去る。
「すげえ」
「せんぱーい」
見送る有希の目がハートマークになっている。
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