どうってことない

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 翌日のMAMK企画のオフィスでは、数人の社員が飲み疲れた表情で椅子に座り、パソコンの画面を眺めている。  窓際の席では、山田が苦り切った表情で電話をしていた。  久幸が昨日の騒ぎなど感じさせないはつらつとした表情でオフィスに入ってくる。 「おはようございます!」  山田は受話器を置くと、久幸を手招きする。 「河口君、ちょっと」 「おはようございます、部長」 「松栄山食品が不渡りを出した」 「え?」 「二度目らしい」 「じゃ、フードフェスタは?」 「主催企業だったからな。自治体が協力しているから、中止にはならないだろうが、内容はかなり変わると思う。メインホールでのイベントは中止になるだろう。もっと金のかからない方法に変わると思う」  久幸はお手上げのポーズをした。イベントのアイデアには自信があったから、ショックは大きかった。 「まあ、こういうこともある」  山田が慰めるように言った。 「はい、次も頑張りますから」 「頼むよ」  久幸は穏やかな表情で自分の席に向かって歩いた。下におろす拳は固く握りしめられて震えていた。  久幸は会社の帰りに一人で居酒屋に行き、食事代わりに飲んで帰ってきた。  ほろ酔い加減でマンションの自分の部屋に入り明かりをつけると、留守番電話のメッセージを再生する。 「私。バカ」  菜々実からのメッセージだった。 「何だ」  短かすぎて何を言いたいのかわからなかった。  久幸は電話の隣に置かれた写真立てを手に取る。写真では久幸と菜々実が笑顔で並んでいる。  写真立てを戻すと机のところに行き、その上にスマホを二つ並べた。ひとつは会社で支給されているもので、もう一つはプライベート用だった。プライベート用のほうはまだ画面がひび割れたままだ。 「早いとこ新しいのにしないと」  翌朝、久幸が会社の近くに行くと、ビルの前に人だかりがあった。人々の中にはMAMK企画の面々の姿もある。 「どうした?」  久幸は松下の姿を見つけて尋ねた。 「河口さん」 「何があった?」 「会社、潰れちゃったみたいなんです」 「は?」 「よくわからないんですけど、会社まで行くと何人か人がいて、中に入れてくれないんです。外で待っているようにって言うだけで」  久幸はそれを聞くと、ビルの中に入っていった。
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