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MAMK企画のあるフロアに行くと、数人の男が入り口に立っていて、山田の姿もあった。
「部長!」
久幸に呼ばれて山田が顔を上げた。
久幸は山田の近くに歩み寄る。
「どういうことです?」
「いきなり弁護士に押さえられちまった」
「何で、ですか?」
「うむ。まず社長とは連絡が取れない。社長の家はもぬけの殻らしい。今、森君に見に行ってもらっている」
「夜逃げした?」
「そうらしい」
「でもなぜ? うちは十分な利益が出ていたはずです。同業他社に比べれば、ずっといいはずです」
「資産運用に失敗したらしい」
「危ない投資に手を出していたんですか?」
「いや、それはないと思う」
「だって、よっぽどのことがない限り、こんなことにはならないでしょう?」
「そればかりじゃないんだ。私もさっき知ったのだが、社長は松栄山食品の社長と親しくていたようだ」
「それじゃ」
「資金繰りが苦しいということで、かなり援助をしていたようだし、他で断られた書類に判も押していたらしい」
「じゃ、フードフェスタでうちの企画が採用されたのも」
「それは関係ないと思う。懇意にしていたのはトップ同士で、向こうの社長の鶴の一声で企画が決まるようなものではなかった」
久幸はやりきれない表情でオフィス入り口に掲げられたMAMK企画の看板を見つめる。
「失礼します」
久幸は山田に告げてエレベーターへと歩いていった。
久幸が外に出ると、松下が駆け寄ってきた。
「河口さん、何かわかりました?」
「あまりよくない。はっきりしたことはわからないが、社長とは連絡が取れない」
「どうすればいいんだろう」
「外で待っているようにと言われたのなら、そのうち何か説明があるだろう」
「はい。河口さんはいいですね。何かあって別の会社に移ったとしても、バリバリ仕事できるから」
「バカ言え」
「いざとなったら、彼女のお父さん、大きな会社をやっているんでしょ?」
「お前なあ。あいつとは別れたって言っただろ」
「よりを戻せば」
「ガキの恋愛じゃあるまいし。そんなに簡単にくっ付いたり離れたりできるか」
「すみません」
そこに有希がしくしく泣きながらやってきた。
「せんぱーい」
「ん?」
久幸に抱きついてしゃくりあげる。
「おいおい」
「ぐすん、ぐすん」
「泣くな、落ち着け」
「そうよ、元気出さなきゃ」
有希と一緒にいた同僚の多枝が慰める。
「うえーん」
「おいおい」
久幸は困って、有希の背中を優しく叩く。
「お前はまだ若いし、仕事だってしっかりやれるし、才能だって他の奴よりある。これくらいのことで泣くな」
「ううん、違う、違う」
「それにまだ会社がダメになったと決まったわけじゃない」
「違う。会社なんてどうでもいい」
「ん?」
「うえーん」
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