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通りに面した喫茶店の大きなガラス窓から日差しが入り、窓際のテーブルは野外のように明るい。
そのテーブルには一組の男女が座っている。サラリーマン風の男は河口久幸で、テーブルを挟んだ反対側に座るのは野村菜々実。
テーブルにはコーヒーカップが二つ。
「いい天気だなあ」
窓の外を眺めている久幸がのんびりとした口調で言った。
菜々実は物思いにふけった様子で同じように窓の外を見ている。
「実はさ、俺、車を」
久幸が話し始めたが、菜々実がそれを遮るように口を挟む。
「私達、付き合って何年になる?」
「ん?」
久幸は天井を見上げて指折り数え始める。
菜々実は下から見上げるようにして久幸を睨んでいたが、ふっと窓の外に視線を移す。
「こんな関係、そろそろ終わりにしない?」
「は?」
「さようなら」
菜々実は席を立ち、振り返りもせずに行ってしまう。
「お、おい!」
久幸は慌てて後を追おうとしてテーブルの足に躓き、ずっこける。
テーブルの上にあったコーヒーカップが床に落ちて、派手な音たてて壊れた。
他のテーブルに座る客たちがくすくすとした笑いをかみ殺している。
「なんだよ」
久幸はぶつぶつ言いながら立ち上がった。
背の高いビルが広い通りの両側に立ち並び、歩道を多くの人が行きかっている。ビルのひとつにズラズラズラっと様々な企業の看板が連なっていて、その中には幸久の勤めるMAMK企画の名前もある。
MAMK企画はイベントなどの企画や運営をしていて、久幸は企画のプロジェクトリーダーだった。
オフィスの中には机が並び、どの机の上にもパソコンがあり、様々な書類が山積みになっている。社員たちはそんな書類を見たり、パソコンを操作したりしている。
一番窓際の席で電話をしていた部長の山田が受話器を置いて立ち上がった。
「おい、河口君、フードフェスタでの企画、うちのが採用になった」
それを聞いた久幸の顔に笑みが広がる。他の社員たちは立ち上がって歓声を上げた。
「おめでとうございます」
一緒にプロジェクトを担当した部下の松下が久幸の近くに来て言った。
「ありがとう。これを励みに、今進めているプロジェクトも絶対にものにしよう」
久幸は周りの者たちを鼓舞するように言った。
近くにいた者たちがそれに応えて頷いた。
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