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「そう言えば、涼介は何で今さら卒業証書を取り返す必要があったワケ?」
奏馬が荷物を片付けながら尋ねた。猛と俺は、その横で三人で掘り返した穴をせっせと埋める作業に当たっていた。
「ああ、今度俳優の専門学校で演技の講師をやる事になったんだけど、講師登録のために『経歴の分かるもの持って来い』って言われたんだよ。いやあマジで焦ったわ、見つかってホント良かった」
「それって……」
奏馬と猛は俺の言葉に顔を見合わせた。
「……涼介、お前それただ履歴書書いて来いって言われてんじゃねえか?」
「えっ?」
「仮に学歴の証明が必要だったとしても、提出するのはその証書じゃないよ。卒業証明書は学校に言って出してもらう書類だから」
「ええっ?」
二人は呆れたように無言で俺を見つめて居たが、どちらともなくクスクスと笑い出し、次第に腹を抱えて爆笑しだした。俺もなんだか訳も分からず可笑しくなってきて、上手くいかない現状とか、将来の不安とか、そういうモヤモヤしたものは、一旦忘れてしまえ、と思う。そういえば、高校生の頃は毎日そんな風だった。
「こんな苦労して探し当てたのに、無駄骨かよ!」
「まあ、涼介から召集がかかった時に確認しなかった僕らも迂闊だったね」
「あー笑った。よおし、涼介、昼飯行こうぜ」
「ごめんて! お礼にメシ奢るわ」
「久しぶりに牛丼食べたいな。昔よく三人で行ったよね」
「任せて任せて。好きなご注文をどーぞ」
いつの間にか空高く登った太陽が、足元に濃い影を作っている。それに背を向けて、俺たちは歩きだした。あの頃みたいに笑いながら。
これからも続く未来に向かって。
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