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ケルピーのたてがみで作った筆で書き初めをする。ケルピーとは英国で見られる馬に似た妖怪だ。池などの水辺に人を誘い込み、自らの背に乗せたら、水中へ潜ってその人を食い殺す。日本でも明治時代から目撃され始め、昭和初期に東北のある沼にいたケルピーから作られたのがこの筆らしい。
墨を馴染ませ、ぬるりとした感触とともに紙に筆を走らせる。今年選んだ文字は「明鏡止水」。水の字のハネを書いたあたりで、筆がむずむずと動き始めた。どうやらこの文字はお気に召さなかったようだ。私の手からぽーんと飛び出し、台所に飛んでいった。水魔の習性なのか、筆は腹が立つと液体の中に飛び込んでいく。雑煮のつゆを温めていた母の悲鳴が聞こえた。
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