サクとサクハと僕と僕

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 僕たちは人気のあまりない、建物の裏手へと移動した。花壇に腰掛けた僕の前に彼女と車椅子。同じ目線の高さで向い会った僕たちは、しっかりとお互いの顔を見つめ合う。彼女は本当にサクと似ている。頭が少し落ち着いてきた僕は、さっき聞いた彼女の言葉を思い出しながら気になっていることを聞いてみた。 「僕が忘れさせられているってさっき言っていたのはどういうことですか?」  彼女やみんなが知っていて僕が知らないこと。そこに僕のこのなんともいえない感情の答えがあるような気がした。 「本当はみんな知ってること。この世界に住む人や昔のあなたたちならば知っていたことを今のあなたは知らない」 「この世界のみんなや昔の『僕たち』なら知っていたこと? なんです? それは」  僕は何を忘れているのだろう。そして僕たちというのは僕とユウトに関することなのだろうか。なぜ二人を一緒にまとめて呼んだのだろう? そんな僕に彼女はこう言った。 「この世界ではオリジナルはスペアを持つことが義務付けられているの」 「オリジナルとスペア?」 「そう。一番私達に近い人間で言うならオリジナルのサク。スペアのサクハ。そしてオリジナルのユウ。スペアのユウト」  オリジナルがサクでスペアが彼女? スペアって何の? そしてユウトは僕のスペア? 「オリジナルとスペアって……」  そう口にしながら、僕はサクハをじっと見つめた。  昔左目と両足を手術して完治しているサク。目の前には左目に義眼をはめ込み両足のないサクハ。オリジナルとスペア。それってまさか……  黙り込んだ僕を見てサクハは頷いた。 「そう。そういうこと。ってユウトだって知ってたことなんだけどね」  しばらく沈黙が続いたあと、僕はゆっくりと口を開いた。 「でも、さっきのきみの話でいうとさ、おかしくない? 僕はきみからすればユウトなわけだよね? でも僕はどこも欠けてなんかいない。それに僕はユウトではなくユウ。全てが健康なことからもそういうことなんだよね? じゃあどうしてきみは僕のことをユウトって呼ぶの?」 「だってあなたはユウトだから」  真っ直ぐに僕を見つめる彼女の目はどう見ても嘘をついているようには見えなかった。
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