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僕は彼女を知っている。僕は幼い頃から彼女とずっと一緒だった。小さな手を繋いだあの日のことも、彼女が初めて手術を受けたあの日のことも。僕は運よくあの日まで何事も無く生きていた。彼女を送り出す時、どうして彼女ばかりこんな目にあうのだろうとサクというオリジナルを恨んだこともあった。でもサクハはいつも笑っていた。大丈夫。ちゃんと帰ってくるからと。それが私達の生きる意味なのだと。
強いサクハ。しっかりもののサクハ。本当は甘えん坊なサクハ。僕がサクハの元へは戻ってこられないと決まった日、僕の本心はほんの少しだけ嬉しかった。愛するサクハを見送るなんて僕には絶体に耐えられないことだと思っていた。産まれて初めてサクハが取り乱した様子を見たあの時ですら僕の胸は張り裂け、気が狂ってしまうかと思ったのだから。
でも僕たちはオリジナルの為に生きている。生かされている。その役割を果たせないなら僕たちには何の価値もない。命を続ける意味がない。だからどれだけ僕たちが望んだところでこの想いが遂げられることはない。しかしどれだけ限られた時間であっても与えられるものがあっただけ幸せなのだ。だから僕達は全て受け入れる。諦める。そう決められたことだから。そしてそこで僕たちの物語は終わりを告げた。
「さく……は……」
僕は立ちあがると彼女をそっと抱きしめた。温かい。彼女の温もりを感じている僕の頬をつーっと涙が滑り落ちた。
サクの手術まであと二日。
あれだけ待ちわびていた日にも関わらず、今はその日が来なければいいのにと考えてしまう。今のまま。ずっと今日という日が続いて行けば。そうすれば僕は誰も失わなくて済むのに。
サクの手術まであと一日。
サクへの愛は本物だと思う。たとえユウの記憶なのだとしても、今の僕にとってサクはかけがえのない大切な大切な人。サクハへの愛は本物だと思う。僕が生きている限りユウトの想いは決して消えることは無い。本当の僕だけでなく、今の僕にとってもサクハはかけがえのない大切な大切な人。
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