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第二十一話
「出るぞ!」
僧庵が声を上げアクセルを踏んだ。霊柩車が武士を轢きながら出発する。
「石川さん――」
霊柩車に乗り込んだ後、鈴木が悔しそうに歯噛みしていた。その様子とこの場に石川がいないことで樋村も何があったかを察する事が出来た。
「石川殿の想いを無駄にしない為にも皆で生き残りたいでござる。けれど! 梶原殿の行動は目に余るでござる!」
服部が梶原に詰め寄り非難した。梶原は表情を歪めうるせぇと目をそらす。
「あんたまた何かしたのか?」
樋村がキッと睨めつけ問いかけた。それに服部が答える。
「織田殿を突き飛ばして逃げようとしたでござる」
「あ、あれは俺がカートを運んだ方がいいと思っただけだよ。突き飛ばしたのは偶然そう見えただけだ!」
梶原が言い訳にもならないような見苦しい発言をした。その場にいた全員の冷たい視線が彼に突き刺さる。
「もういいのです。私も無事でしたから」
「ほ、ほらこいつもこういってるだろうが!」
「あんたなぁ……」
「え? 石川さん!?」
その時、鈴木が戸惑った様子で呟いた。後ろの窓から様子を見ながらだ。樋村も確認したが武士と化した石川が追ってきているのが見えた。
「お、おいおいどういうことだよこれは!」
「もしかして石川さんはあの武士の刀に?」
「あ、あぁ。僕たちを守ろうとして……」
樋村が問うと鈴木が口惜しげに答えた。悲しいことだが同時にそれは残酷な現実を突きつける。
「俺も途中で見た限りですがどうやら武士に斬られると斬られた人も武士になるようなんです」
「おいおい冗談だろう? まるぜゾンビじゃねぇか」
「ゾンビは噛んだ相手を仲間にしますがこっちは斬った相手を仲間にするのですね……」
梶原が目を見開き叫んだ。長信は冷静に話をまとめていた。
「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!」
そして梶原は同じ言葉を繰り返しながらドンドン! と席を殴っていた。
車内の空気も重い。
「……とにかく振り切って寺に戻るぞ」
僧庵が言った。武士も車の速度には追いつけない。武士と化した石川との距離もだんだんと遠のいていった。
「そういえば食料はどうでしたか?」
「いや、それが……」
長信が口ごもる。表情は暗かった。上手くいかなかったのか、と樋村と衣弓も眉を落とすが。
「戦利品はこれぐらいでござるな――」
すると服部が背負っていたリュックを開き中身を見せてくれた。リュックの中には缶詰やスティックタイプの栄養補給職、チョコレートなどが詰まっていた。
更に服部は服からは乾電池や充電器などを取り出して見せる。
「スーパーに丁度いいリュックがあったでござるからそれに詰めるだけ詰めておいたでござるよ」
「はは。やるな忍者娘。ちなみに俺も薬をしっかり回収しておいたぜ」
服部の功績に笑顔をのぞかせつつ平賀も手に入れた薬を見せてくれた。消毒薬から錠剤の入った薬、軟膏、湿布、包帯など色々と持ってきてくれたようだ。
「良かった無駄にはならなかったんだ……」
「くそ! 酒は持ってきてないのかよ!」
「必要なのを優先させたでござる。というかあんたそんなわがまま言えた義理じゃないでござるよ」
梶原に対して厳しい服部だがそれも仕方ないだろう。とにかく最低限必要な物は手に入ったので多少は安心できそうである――
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