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闇夜のような黒髪に、ガーネットのような赤い瞳。
これが、自分を買った、新たな飼い主。
「私は、ヴァイオレット・ルミエール。貴方の新しい主人よ」
自分たち奴隷には、自由はなく、五体満足どころか、命すら彼女たちにとっては道具に過ぎない。
「貴方への命令はただひとつ」
しかし、命令に逆らうことは許されず、ただ頭を垂れて、命令に従う他ない。
奴隷を使って行わなければいけないこと。
どう考えても、表沙汰にできない汚れ仕事だ。
受けたところで、目の前の令嬢の計画が上手くいった暁には、不穏分子でしかない汚れ仕事を知っている奴隷の存在など、抹消されるに決まっている。
しかし、断ったところで、死。
この令嬢に買われた時点で、人生が詰んでいた。
「私を、悪役令嬢にすることよ」
”悪役令嬢にする”
令嬢の言葉は、それはもう無理難題で――――
――――ちょっと、だいぶ意味が分からない。
しかし、相手は公爵家の中でも、王家との繋がりが最も深く、貴族の中でも頭一つ抜けているルミエール家。
疑問を返して、不敬と言われる危険もないわけではない。
「これは、国にとって、とても重要な案件よ。貴方は頭が回ると聞いたわ。だから、協力してほしいの」
真剣な表情で言われても、困惑するだけだ。
「御言葉ですが、具体的な目標というものはございますか?」
道楽としての悪役令嬢、つまり悪役、ヒールを演じたいということだろうか。
それとも、別の理由があるのか。
なんで、こんなのに付き合わなきゃいけないんだ。
「私と第一王子の仲を悪くして、婚約を破棄させてほしいの。そうすれば、第一王子の婚約者は、我が妹であるブルーベルになるはずよ」
本当に、一から全てちゃんと説明してほしい。お願いだから。
「………………色恋の話ですか?」
「違う。それから、この話題に関して、遠慮は必要ないわ。貴方の忌憚ない意見を聞かせて」
「お心遣い感謝します。では、お聞きしますが、その話に置いて最も重要視されているのは、ブルーベル様と第一王子の婚約でしょうか?」
「そうよ。そのためには、本来の婚約者である私が、どうにか正式っぽい理由をつけて下りないといけないの」
「何故?」
聞きたいことは多いが、まずはそこだ。
彼女が言うには、色恋ではないらしいが、政治的な理由ならそれこそ正式な理由になるはずだ。
それができない公爵令嬢の婚約拒否の理由など、個人の感情以外に思いつかなかった。
すると、彼女は、じっと自分を見下ろし、その黒い髪を靡かせた。
「私の姿を見て、どう思う?」
「は……? 大変麗しいです」
「世事は結構」
冷ややかな視線は受けたものの、言いたいことはおおよそ想像がついた。
「つまり、昔話の国を傾けた吸血鬼の姿によく似ているヴァイオレット様は、王妃に相応しくないと?」
「そういうこと。ちなみに、ブルーベルは、金髪に青い目だから、その辺りの心配はいらないわ」
この国で、太陽のような金の髪に、青色の目は縁起が良いとされており、貴族の中ではそれだけで序列が変わる時がある。
ルミエール家では、序列が変わるほどではないが、少なからず縁起の良し悪しを気にするのかもしれない。
「だから、王子に嫁ぐのはブルーベルだと決まっていたのに……」
大きくため息をつく彼女の代わりに、侍女が続けた。
「お嬢様が八歳の誕生日を迎えられた時、王子より告白されまして、婚約者となりました」
「諦めたら?」
向こうにとっては、恋愛結婚のようなものじゃないか。
目の前の彼女には、言い伝えなど忘れてしまった方がいいと思う。
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