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個人的には、本当にどうでもいい案件だが、主人の願いだから仕方ない。
首を刎ねられたくないので、諦めて協力することにしたが、協力を拒否したのと、協力した上で失敗したのでは、前提が異なってくる。
そのためにも、まずは情報収集だと、今まで行ってきたことを主人に確認する。
第一に、主人の目指している”悪役令嬢”とやらが、一体何なのかが全く掴めていない。
「本を参考にして、色々やったわよ」
「悪役令嬢になる本?」
「そんな本があれば、今すぐにでも取り寄せて。昔話から、今流行ってる本まで、色々読んだわ」
すでに嫌な予感がする。
「灰被りのガラス靴みたいに、妹をお茶会に参加させなかったり、出かけようとしているのを妨害したり」
「話を聞いてる感じ、うまくいってそうですけど」
定番だが、悪くない発想だ。
ブルーベルからの好感度が下がるというよりも、周りからの評価が下がるため、公爵令嬢としてあるまじき姿勢と悪い評価がつく。
「いえ、ブルーベル様が今後不利益を被らないよう、細心の注意を払って参加させないお茶会や外出を選んだところ、結果的に妹様を思った行動だったのではないかと噂になりまして、全くの逆効果となっています」
「そう! なんで!?」
いや、選ぶからだよ。
そういうのは、全てのお茶会、せめて重要なお茶会や社交界を断らせるからこそ、意味がある。
「他には……」
「お姉さま!!」
廊下を歩いていれば、庭園で手を振る質素な装いながらも、気品を感じさせる服を着た少女。
例の妹というブルーベルだろう。
「そちらの方は? 新しい使用人の方ですか?」
「えぇ。新しく買ったの」
「買った……?」
「奴隷よ。そんなことも知らないの?」
冷たく言い放つ言葉に、ブルーベルは困ったように視線を下げたが、不思議そうな表情で自分のことを見ていた。
「お父様にお願いしたら、買ってもらえたの。間違っても、貴方も買ってほしいなんて言い出さないことね」
一応、表向きには奴隷の販売は禁止されている。
ただ、貴族の間では、当たり前のように行われていることで、あってないような法律だが。
ルミエール家は、今まで奴隷販売に手は出していなかったが、曰く悪役令嬢になるために、少し犯罪に手を染めてみたらしい。
「返事は?」
「は、はいっ!!」
なので、今の言葉は、ただの真似するなという注意に他ならないのだが、全くもってこの主人は気が付いていない気がする。
まさかとは思うが、あの質素そうに見える服は、ワザとだったりするのだろうか。煌びやかに着飾る貴族の中で、確かに質素ではある。
だが、高品質な生地とその華麗な容姿が、見劣りどころか、よりブルーベル本人の美しさを引き立たせ、下手な貴族令嬢よりも煌びやかとなっていた。
先が長そうな”悪役令嬢作戦”に、空を見上げため息をつきそうになった。
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