吸血鬼な公爵令嬢は嫌われたい

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 新しい主人の元に来てから、早くも1ヶ月が経とうとしていた。  その間、まずは主人の目指す悪役令嬢像を確認することも含め、行動を見守るっていた。 「――で、結論から言いますが、諦めれば?」 「なんで!?」  赤い瞳が驚きと殺意に満ちていた。  しかし、この結論に至るにはちゃんと理由がある。  こいつ、令嬢として、びっくりするほど完璧だった。  おそらく、家柄の自慢をして、周りを困らせる作戦を実行したところで、公爵家であるルミエール家の功績は、単純にとてつもないものであった。  それは構わない。  だが、それを自分がやったかのように()()に語ることで、周りは困り果てるのだが、ヴァイオレットはそれまでの話題に合わせた功績を()()に語り、去る。  悪役令嬢にそんな話術はいらない。去らなくていい。無駄に話題に関係のない功績まで語り続けろ。周りを辟易させろ。 「う゛……」 「あと、ブルーベル様が男と話している時に横入するのも、ただ妹のフォローに入っているようにしか見えない」  男遊びが盛んな悪役令嬢のように、ブルーベルが同じ年位の男と話しているところに、ヴァイオレットが割り込む。  その行為そのものはいいが、大前提として、あの容姿で、未だに婚約者が決まっていないブルーベルを、貴族の男が狙わないはずがないというのが大問題だった。  下心丸見えの男たちに、ブルーベルが困っているところに、横から会話に入ってくるヴァイオレット。  もう完全に妹助けに来ている妹思いの姉だ。 「な゛ん゛て゛」  ブルーベルの婚約者については、ルミエール家自体が、ブルーベルを第一王子の婚約者に挿げ替えようとしているため、仕方ないといえば、仕方ない。  そもそも、ヴァイオレット曰くブルーベルには厳しく接しているつもりらしいが、ただの正しく厳しいだけだ。 「理由もなく、水をぶっかけるぐらいしてください」 「それでブルーベルの品位が落ちたら、第一王子に嫁げないでしょ」  結局、そこが引っ掛かるため、ブルーベルには心身健康にいて頂かなければならない。  この時点で、高難易度も高難易度だ。 「あと、自分についても」 「!! ようやく、奴隷を買ってるって悪い噂になってきた?」  目を輝かせているが、貴族が奴隷の一人や二人持っていることに、今更何か言うわけないだろう。  ルミエール家というのは、多少驚かれるかもしれないが。 「奴隷に、使用人の服を着せて、執事として傍に侍らせるなんて、実は自分が何か訳ありで、売られていたのを助けたのではないかと専らの噂です」 「みんな、頭にヒマワリでも生えているのかしら?」 「いいですね。今の悪役令嬢っぽいです」  怒りに任せてテーブルに置いてあったコルクを投げつける様など、正に目指している悪役令嬢じゃないか。  できることなら、グラスの方を投げてほしいが。 「もっと悪い話もありますよ」 「…………いいわ。聞きましょう」  真っ直ぐに見つめ、自分にとって悪い情報をしっかりと聞こうとするヴァイオレットは、本当に人として好感が持てる。  しかし、本当に悪役令嬢には、向いてなさすぎる。
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