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「先程の自分についての情報、どこから入手したと思います?」
もちろん、使用人たちの噂を聞いたというのは事実だ。
だが、それ以上の情報源があった。
「ブルーベル様です」
「は……? なんで?」
「直接言われたんです」
きっと、初めて会った時から疑問だったのだろう。
大好きなヴァイオレットお姉さまが、禁止されている奴隷を買ってきて、その奴隷を使用人として傍に侍らせているなんて、何か理由があるはずだと。
予想は正解だが、まさか『悪役令嬢になるため』などとは、想像しないだろう。できたら怖い。
「何か、自分で力になれることがあれば、ぜひ手伝わせてほしいと」
「…………」
「あ、ちなみに、たまにですが、お茶させて頂いてます」
「なにしてんの……本当に」
「客観的な視点での評価も必要ですよ」
頭を抱えているヴァイオレットは、落ち着くためにぶどうジュースを一気に煽った。
「それも含めてですが、ブルーベル様には大変好かれているようですね。それから、第一王子にも」
「……そこまで調べたなら、理由も聞いたんでしょう?」
「聞きましたよ。容姿についても聞きました。とても良い評価でした」
「今すぐにアンタを解雇したい」
「今の発言は、すごく悪役令嬢ですよ。できることなら、”解雇してやる”と断定でお願いします」
黒髪に赤い目。透き通った白い肌。
まるでお伽話に出てくる吸血鬼のようだと、そう口にした時、ブルーベルはその優し気な表情を一変させた。
心の底から怒る姿は、彼女からヴァイオレットに向けられる好感度が既に手遅れであることを証明していた。
「第一王子も、その容姿について、もし陰口を叩く貴族がいれば、その貴族たちを容赦なく潰す覚悟をお持ちだそうです」
「どうして貴方がそこまで知っているの?」
「ですから、ブルーベル様です。大変仲がよろしいようですよ。ヴァイオレットお姉さまの話で、一夜過ごせる仲だとか」
「だぁ~~かぁ~~らぁ~~!!! 一夜中にやることが違う!!」
駄々っ子のように地団駄をするヴァイオレットは、はたとその動きを止めると、こちらを見た。
「わがまま令嬢らしく、お父様の資金で、ドレスの店を作るのは? 私がデザインして、そのドレスを着ないと入れないお茶会をするの。ドレスは全部黒! きっと貴族たちは不満ばかりよ。でも、ルミエール家主催のお茶会なんて断れるわけがないから、泣く泣く来ることになる。これいいんじゃない?」
作戦としては悪くない気がする。
ただでさえ、令嬢がお遊びで作った店など、働く側、特に腕のいいプライドを持った職人なら嫌う存在だ。
ドレスが黒などという喪服のようなデザインというのも、大変悪いイメージで、評判を落とせる。
この場合、品位が落ちるのは、あくまでデザインをしたヴァイオレットだけであり、ルミエール家は大きなイメージダウンにはならない。
「なんでだろう……嫌な予感しかしない」
「なんでよ!?」
作戦として悪くないはずなのに、本当にどうしてだろうか。
「と、とにかく、お父様に相談してくる!」
半年後、斬新なデザインだと若い女性を中心に、黒いドレスは流行り、見事にワガママ貴族の黒ドレス作戦は失敗となるのだった。
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