仮面の下のあなた

一枚の紙切れの契約

「ら、「蘭ちゃん！？」」

その呼び方にぎょっとして聞き返そうと声を出そうとした所で、突っ伏していたというのにガタンと音を立てて勢いよく立ち上がった父の食い気味の言葉にかき消された。

「なあに？もう泣き真似は終わりなの？」

「っ、うっ………、泣き真似、ってそんな言い方しなくても………。って、いやいや、そうじゃなくて、僕聞いてないんだけど！？雫ちゃん、なんでそんな仲良さそうに、蘭ちゃん、なんて呼ぶの！？」

慌ただしくそう問い質している父の姿を白けた目を向けてしまうのは、もうどうしようもない。

鬱陶しいくらいに、騒がしいんだもの。

その上、蘭ちゃん、と声色を変えて口にした言葉に気色悪くてぶるりと鳥肌がたった。

そうして、母の口にした泣き真似、というのもあながち間違いではなさそうだと、よく見れば突っ伏していたせいで見えなかったけれどなんか袖の内側から目薬らしきものがのぞいていることで分かってしまったし。

隠すように持っているなんて、これは間違いない証拠だ。

こんなのと同じ血が流れているのか、と毎日のように思わされて重たい溜め息を吐きたくなる。