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夜の舞踏会
月明かりに照らされるバルコニー。
すぐ後ろの扉を締めてしまえば、もうここは音のない世界。
カーテンだって閉めてしまえば、誰にも見られない世界。
片手に持ったシャンパンの入ったグラスを手すりの上に置いて、懐から一枚の紙を取り出した。
それは、今話題のニュースの書かれた記事。
そのお題は、私、だ。
………ああ。
何度見ても、腹が立つ。
自然に手に力が入って、ぐしゃっ、とそんな音が鳴る。
くしゃくしゃになったその紙をその辺りに捨てる訳にもいかないから、込み上げる怒りを収めるように私はそれをまた懐へと戻すのだけれど。
「婚活はどう?麗しの鷹司家のおじょーさま。」
「ん?何?このシャンパン浴びてみたいって?」
会場の中から見えないように、カーテンも扉もわざわざ締め切ったというのに、どうやってここに私がいると分かったのか。
ガチャリと扉を開けて、くつくつと堪え切れていない笑いを零しながらそんなふざけた言葉を口にして現れたその男に私はにっこりと笑みを浮かべて言葉を投げ返す。
あー、やだやだ、こわい、と。
すると、わざとらしく肩を竦ませながらも笑ってそう口にするのだから、本当にシャンパンを掛けられても文句は言えないと思う。
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