2 御屋敷

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ぼくは少年達に撮影交渉を行うことにした。広場は遊具の一つもなく、中央に杉の木が一本生えているだけの寂しいもの。子供達は杉の木を囲み何やら叫んでいた。 「おーい! キミ達ー!?」 ぼくは手を振りながら子供達の集まる杉の木へと向かった。すると、囲んでいた子供達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。囲んでいた子供達が去っていったことで、杉の木の袂がぼくの目に入った。 そこにあったのは、一人の少年が縄で縛られている姿だった。少年は全身泥まみれで青痣や生傷が全身につけられ、膝小僧も擦過傷が痛々しく輝いていた。その足元には石ころがいくつも転がっていた。 「おい! 君! 大丈夫かね!」 少年は涙で顔をクシャクシャにしながら「えぐっ…… えぐっ……」と嗚咽し、涙を流していた。状況を尋ねるよりも、応急処置の必要がある。ぼくは鞄の中からカッターナイフを出し、少年を拘束する縄を切った。縄は麻縄で硬いものだったが、カッターナイフを何度も前後させて解れさせることで切ることに成功した。 「縄は解いたぞ。もうちょっとだけ大人しくしてるんだぞ?」 ぼくは続けて鞄の中からウェットティッシュを出し、泥と傷口を軽く拭いた。傷口を拭う時は一声をかける。 「ちょっと染みるぞ?」 ぼくが少年の傷口にウェットティッシュを当てた瞬間、傷が染みたのか苦悶の表情を浮かべた。傷口がある程度綺麗になったところで、スプレー式の消毒液を出し傷口に吹きかけた。 「ぐっ……」 少年は奥歯を噛み締め、染みる痛みに耐える。 「ごめんな。傷口汚いままだとバンドエイドつけられないからな? もう少しだけ我慢してくれな?」 「バンド…… エイド……? なに? それ?」 この辺りは絆創膏をバンドエイドと呼ぶ地域ではなかったか。ぼくは絆創膏を鞄の中から出し、少年の目の前に差し出した。 「これ、貼るからね? 傷口に砂とか泥とか入っていたら貼れないからね?」 「カットバン……」 この辺りは絆創膏をカットバンと呼ぶ地域だったか。とある番組の企画で全国の絆創膏の呼び方を電話で全国の都道府県庁所在地の市役所に電話をして調べたことがあるのだが…… 呼び方は本当にバラバラで一貫性がない。東端の県の一県だけバンドエイド呼びなのだが、その県に隣接する県は全てカットバン呼びであると言った具合だ。特に飛び地で呼び方が共通している事象ともなればちょっとしたミステリーである。この涼風村がある県はバンドエイドと呼ぶ県だったとぼくは記憶しているのだが…… 正直なところ、どうでもいい。
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