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〈え?〉
〈JISQ15001の認証に従って、キチンと処理しないと駄目なのよ〉
〈個人情報の管理ですか?〉
〈こういう履歴書一枚でも個人情報じゃない? こういうのをダイレクトメールの業者に流したって変に疑いかけられたら面倒でしょ?〉
〈ええ。確かに〉
〈こういったのを処分したって言ったのに、処分せずに名簿屋さんに流したのがバレて認証取り消しになった制作会社あったのよ。こういうのって信用問題になるじゃない?〉
〈マズいですね……〉
〈そうそう、そんな訳だから直接手渡しで返して上げてくれない?〉
〈わっかりました。直接返しておきます〉
〈じゃ、よろしくね~〉
〈はい、失礼します〉
ぼくは電話を切った。チン鳴りがロビーに響き渡る。
さて、こう言った面倒事はさっさと済ませるに限る。今の時間は…… 午後三時、早朝の日も昇らぬ時間から車を走らせて、涼風村に到着たのが、昼過ぎだ。それから多少なりとも民宿ふるさとで休息をとり、今の時間となる。ほぼ半日車を走らせて疲れてはいるが、動けないほどではない。ぼくは履歴書の返却に向かうことにした。まずはアポイントメントだ。
しかし、電話番号がわからない…… 携帯電話の番号は記載されているものの、この村に電波はなくかけても無駄だろう。そもそもかけたところで「この電話番号は現在使われておりません」のパターンだ。すると、下の棚に分厚い辞書のような本があることに気がついた。携帯電話の普及や個人情報の保護の意識向上によって廃止された個人電話帳である。
「まだあるんだ…… どんな田舎なんだよここは……」
この電話帳には住所も記載されており、そのADくんの住所と履歴書に記載された住所と照らし合わせる事ができた。そして、併載されていたADくんの実家の電話番号にじーこじーことダイヤルを回した。
trrrrr…… trrrrr…… ガチャ。
ツーコールで電話に出た。電話の置かれた居間にでもいたのだろうか。
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