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墓参りを終えた後、ぼくは一つの仕事を引き受けた。何ということはない紀行番組である。
今度はディレクターが見つけてきた田舎の撮影クルーに同行するだけで、前のようにゼロから田舎を探すようなことはない。それだけでも気楽に感じられた。
だが、皮肉にもその田舎は涼風村に近い場所にあり「また、あのような目に遭ったらどうしよう」と言う不安に襲われていた。しかし、隣の市の警察官や、刑事が言っていたように涼風村は地震におる地盤沈下と土砂崩れで地の底へと沈み、地図からその名を消したと言う。
ぼくは塒とする旅館の夜の暇潰しで「友人が体験した怪談話」として涼風村で起こったことを撮影クルーに話をしてみたところ、ディレクターの琴線に触れたのか、撮影のオフ日に足を運ぶ流れとなった。
「消えた村かぁ、杉沢村みたいだね。しかも、人間剥製達が一斉に山狩りをやって殺しに来ると言うのが面白い」
実際に殺されかけたぼくからすれば、面白くもなんともない。顔は苦笑いを浮かべつつも、心の中では「ふざけんなコノヤロー!」と叫んでいた。
「そんな村がこの近くにあるなら行かなきゃダメでしょ。これでホラードラマなり映画なりの企画書を書かせてもらおうかな?」
ぼくは渋い顔を浮かべてしまった。気は進まないが、現時点の上司であるディレクターに従わざるを得ない。今度は撮影クルーでの来訪で一人ではない。
再びあんな目に巻き込まれても、一人じゃなければ多少は不安も紛れるというものだ。
ただ、撮影クルー全員が人間剥製にされる可能性もゼロではない。ぼくはやっぱり不安になるのであった……
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