おわりに

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だが、その不安は杞憂であった。撮影クルーと共に涼風村へと向かったのだが、涼風村の入口へと続く峠の道は登りから下りへと入る途中でガードレールによって塞がっており、行き止まりになっていた。少し引き返した場所に東屋があったため、ぼく達は休憩を取ることにした。その東屋はぼくがかつて涼風村を見下ろした場所である。 ぼくは東屋から以前と同じように涼風村を見下ろした。だが、見下ろした先には荒れ地の枯芒(かれすすき)が広がっており、村としての(てい)は嘘のように消えていた。 ディレクターはぼくの肩をぽんと軽く叩いた。 「村はなかったみたいだね。Google マップに『村名』すら書いてないし、ただの名無しの山にある盆地の荒れ地だね、こりゃ」 「……みたい、ですね……」 どうやら、これで本当にぼくは涼風村のことを忘れられそうだ。 最後に、涼風村とはなんだったのかを考えてみることにした。 恐らくだが…… 亡くなっても、その体を人間剥製とされて土へと還ることが出来ずに眠れぬ者達が彷徨うこの世に在らざる村だったのだろう。村人達の無念はぼくのように迷い込み、この村の秘密を知ってしまった者に時として牙を剥くのだ。 そして、その村には遥か遠くの東京の地で命を失った剥製師である芯弥が帰ってきている。 話を聞く限りではいい思い出はなかったようだが、自分の生まれ故郷であるために望郷の念にも似た自らの魂が帰還を望み、死して尚、それを成したのだろう。 ぼくに出来るのは、この村に呑み込まれて剥製にされる者が出ないことを祈るのみだ。                             おわり
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