ぼくの知らない話

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 おれはダイダロス映像に御礼参りに行くことにした。しかし、三年間毎日真面目に働いて十六万円しか貰えないとは日本の刑務所は何というケチなのだろうか…… これでは一回の飲み代にもならない。これじゃあ、風俗にも行けないし、キャバクラでも安酒しか飲めないではないか。これではタクシーに乗ることも出来ない、都内に入っただけでおれの三年分の労働のうちの半年分が飛んでしまう。仕方なく、電車を使いダイダロス映像へと向かうのであった。 「あれ?」 ダイダロス映像の入っているビルに着いたのだが、もうダイダロス映像はそこにはなかった。蛻の殻になっていたのである。仕方なく掃除婦に聞いたところ、衝撃の事実を述べられた。 「ああ、ここにあったテレビ作る会社さん? 数年前に倒産してなくなっちゃったよ」 ダイダロス映像は倒産してしまったのか。大方、おれがいないせいで番組を作れずに、大手テレビ局からの信頼もなくなり、仕事が来なくなり、運営が上手くいかなくなったといったところだろう。ならば、おれの記憶に残っているディレクターやプロデューサー仲間に拾って貰えばいい。あいつらはおれの実力はよく知っている、三顧の礼でおれを採用するだろう。 とりあえずは「当座の金」をくれる会社に就職することが第一だ。 しかし、世の中はそう甘くなかった。制作会社を訪問し、かつての知り合いに会うも、無碍に追い出されてしまう。とある制作会社では、おれが世話してやったADがディレクターになり、大手テレビ局のゴールデンタイムにレギュラー番組を持つ程に出世していたのだが、おれの顔を見た途端に「前科持ちはちょっと……」と追い出されてしまった。恩知らずにも程がある。  おれは大手テレビ局を訪問し、親友関係であったプロデューサーを頼ることにした。受付におれの名前を言い、そいつを呼んで貰ったのだが、来たのは警備員。おれは警備員に両腕を掴まれ「次に局の建物内に入ったら不法侵入で警察を呼ぶ」と釘を刺されてしまった。 前科持ちのおれが頼ってきやがったとでも思ったのか、追い出しにかかったのだろう。 世の中はこんなにも無情だったと言うのか…… そもそも、日本は受刑者の社会復帰支援のシステムが不十分すぎる! 携帯電話も契約出来ない! 所持金も少なく住む場所もない! 社会の目は冷たい! 住所がなくて就職も出来ない! 今回はそれ以前の問題だ! ディレクターに戻ることがあれば、受刑者の社会復帰支援システムの不十分さを誇張を重ねてこのシステムを徹底的に叩く番組を作ってやろう! と、志は崇高なるも、今の出所したばかりの無職のオッサンに過ぎないおれは無力である。 おれは仕方なく出所者の支援団体を頼り、そこを住所にして再起を図ることにした。
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