ぼくの知らない話

3/15
前へ
/116ページ
次へ
 住所さえあれば再就職はどうにかなるもの。おれは映像編集が出来ることを武器にして、ケーブルテレビ局のディレクターとして就職することに成功した。三年前で科学技術が止まっている浦島太郎同然のおれでも設備や備品がショボいと感じる…… まぁいい、どうせ腰掛けみたいなものだ。すぐに大手テレビ局から仕事を貰えるような制作会社に返り咲いてやるさ。おれの実力ならそれが可能だ。 そんなある日、おれは若造のプロデューサーに呼び出された。年下のくせにタメ口なのが気に食わないが今は我慢だ。年上には敬語を使えと上司から教えられなかったのか? 三年前なら鼻っ柱の一つも叩き折っているところだ。 「山石井さん? ちょっとウチの姉妹局に行ってきてくれない? 相当な田舎なんだけどさ?」 「え? 何で自分が? その田舎からバイトでも派遣でも雇えばいいじゃないですか?」 「頼むよぉ? その姉妹局、立ち上げたばっかでてんやわんやなのよ? 何でもテキパキ出来る人が欲しいって、他の姉妹局からも行ってるからさ?」 これだから予算の厳しいケーブルテレビ局は嫌いだ。いつかやめてやる!  おれはそんなことを思いながら夜行バスに乗り、早朝に降りた駅でレンタカーを借りて、その姉妹局に向かうのであった。飛行機のファーストクラスや新幹線のグリーン席を使おうと思ったのだが、若造のプロデューサーが「うちのケーブルテレビ局は予算が少ない」とか宣い、金はかからないが時間はかかるルートを選ばされてしまった。出発は一日前だ。 正直、自腹を切って早く到着しても良かったのだが、今のおれには金が無い。3年前はディレクターの立場を利用して「経費」で贅沢が出来ていたために貯金する必要がなかったのだ。おれは数千万円のマイカーを持っていたのだが、車検も切れている。刑務所にいては車検の更新も出来るはずがない。家も都内のテレビ局に程近いマンションだったのだが、逮捕後に家賃滞納と言うことになり契約を打ち切られてしまった……
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加