ぼくの知らない話

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 東京から夜行バスに一晩以上揺られ、名前も知らないような田舎の駅で降りたおれは駅前のレンタカー屋で、レンタカーを借りた。風光明媚なる山間の登り道を走り抜け、峠の頂上にて東屋を見つけたおれはその脇に車を止め、休憩をすることにした。 おれは東屋より峠の下に広がる村を見下ろした。四方を山に囲まれ、その中の平地に僅かにポツポツと間隔を空けて建てられた家々、それに田畑が挟まり緑と茶色のコントラストを描いている。わかりやすい程の田舎である。 「うわ、あの村を通過するのかよ…… やってらねぇ」 峠の下に広がる村の名前はわからないし、興味がない、死ぬほどどうでもいい。レンタカーのカーナビの地図にも記録されていない。 おれは今、上司の命令で姉妹局に行かされている道中だ、そこに行くためには階下に広がる村を通り抜けなければならない。ローカル線すらも通じてない田舎にあるケーブルテレビ局と言うものの存在価値が分からない。  おれは東屋での休憩を終え、レンタカーに乗りいろは坂の峠を降りた。峠を降りたおれを出迎えたのは首なし地蔵の山だった。峠の袂の山の斜面に苔生(こけむ)した首なし地蔵が所狭しと並んでいるのである。 「薄気味悪い…… この辺りの石で地蔵を作ると首が落ちるぐらいに脆いのか?」 おれは首無し地蔵を不気味がりながら車を走らせた。しばらく進むと、石柱の横を通り過ぎた。おれは小中高と野球部で四番打者を任ぜられていた、動体視力が人より良く、ボールが止まって見えるぐらいだったお陰だろう。一瞬通り過ぎただけでも、石柱に刻まれた文字をハッキリと確認することが出来た。その石柱は首なし地蔵と同じように古ぼけ苔生しており「涼風村」と刻まれていた。 「田舎臭い割には爽やかな名前だな」 おれはそのまま道路沿いを車で走り、涼風村へと入村した。村の入口は昭和を思わせるような商店街そのものであった。ここまで高度に再現された昭和の商店街は映画やドラマでしか見たことがない。どこかの局が映画やドラマのロケ用に作った野外舞台装置(オープンセット)だろうか。日本もハリウッドみたいに撮影のために街を一個作るようになったのか? もしそうならば、おれがブチ込まれている三年の間に立派なものを作ったものだなと感心してしまった。
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