ぼくの知らない話

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このモツ煮込みは煮込み汁も甘く、美味しいものではあった。 さて、次はレバニラ炒めだ。モヤシもニラも良くオイスターソースと絡んで美味しいものと言えた。レバーも勿論美味しいのだが、噛みごたえと味に違和感を覚えた。これまで食べていたレバニラ炒めと「何か」が違うのである。初めての味故に箸こそ進むが、おれの頭の中には違和感が拭えなかった。 添え物のスープも、ラーメンに使っているものをそのまま出しているのか、あっさりとした醤油味だった。しかし、ラードが浮かんでおりコクのある味を醸し出していた。 「食った食った。ごちそうさま。美味しかったよ」 「ええ、これは何よりです」 すると、外より激しいクラクションの音が聞こえてきた。おれはクラクションの音が嫌い故に舌打ちを放ってしまう。すると、垂れつきの衛生帽子を被り、白いエプロンを纏った男が定食屋の中に入ってきた。そして、婆さんに向かって怒鳴りつけた。 「おい! おばちゃん! 車が止まってて前に進めねぇぞ! アンタんとこの客だろ!? 早く動かすように言ってくれ!」 婆さんは申し訳ないようにその男に向かって頭を下げた。店の外には小さな冷凍冷蔵車が一台停車している光景が見えた。 「すまんねぇ、肉屋さん」 しまった、路肩に停めたおれのレンタカーが邪魔で進路妨害になっていたようだ。いつもの仕事(ロケ)の時ならADに邪魔にならないところに動かしてもらっていたのだが、今回は一人旅でそこまで気が回らなかった。それにしても、この商店街は何と言う道の狭さだろうか。肉屋にしても走っている時点でおれのレンタカーが道を塞いでいて通れないことが見えているのだから、横道なり別の道を行けばいいものを…… 全く…… おれは渋々ながら車を移動させることにした。肉屋は変な目つきでおれの顔をじっと眺めた、ジロジロ見るなよ…… 鬱陶しい。 「アンタ、村のモンじゃねぇな?」 「ただの通り過がりですよ。この先の市に用事があって」 「そうか、あんまりこの村をウロウロするんじゃねぇぞ? 他所者には厳しいからな」 「ああ、はい」 隔絶された群衆心理が村人の中に他者を受け入れないようにさせるのか。心療内科医をおれの番組の監修に招いた時にこんな話を聞いた覚えがある。こういうのが村八分を正義と思い込んでいるのだろうな…… 怖い怖い、あまり関わらないようにしよう。 おれは会計を済ませることにした。早く車を移動させないと何を言われるか分からない。 「婆さん、お愛想。領収書頼むわ」 しかし、店のどこを見てもレジがない。こんなところまで昭和レトロとは…… ここだけ令和じゃなくて本当に昭和なのではないか? 最近は経理も厳しいのか領収書を提出しても「これでは領収書を切れません」と強気になり、ちょっとした話し合いになってしまう、金がないケーブルテレビ局の経理があんなに生意気だとは思わなかった。ダイダロス映像にいた時は机を叩きつけ「あ!?」って凄むだけで、すぐに領収書を切ってくれたと言うのに…… 今や会社の金で風俗行ったり、高い酒飲んでいたのを経費だと言い張って切らせていたのも夢の後…… 悲しい。
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