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「ま、大変ですからね。テレビ業界って…… 昔観てたテレビ番組が面白かったからって言って、作る側に回ったら辛いだけだったって考える子は多いもんです。ところで…… 立派なお宅ですね。この村に来てフツーの家とかは見ますけど、それらとは違って大きいですね」
芯弥は何度か宙を見上げた後、中庭の向こうに見える村の家々を眺めた。
「そう…… ですね。一応、村の名士の家だからでしょうか」
村の名士とはこの令和の時代に聞かないような言葉だな…… ぼくはそれが気になり、突っ込んで聞いてみることにした。
「村の名士って言うと、村長さんとかですか? それとも何かの企業の創業者さんだったりします?」
「いえ、そう言う訳では…… ただ『とある界隈』では有名と言うだけです」
「とある界隈?」と、ぼくが言うと芯弥は神妙な顔をした。そして、傍らに置いたビデオカメラの入ったショルダーバッグを一瞥する。
「今からお見せするものを『素材』にしないとお約束出来ますか?」
素材とは、ぼく達のようなテレビマンの用語でカメラに収める映像のことを言う。ロケハンや本番撮影でカメラに収めた映像のことを言い、特に本番撮影で使う映像の入ったビデオテープやSSDのような記録媒体は編集して切り取るなどしてOAの際に使う可能性があるために紛失は絶対厳禁である。
ぼく達のようなテレビマンは「素材」だけは絶対に無くすなと厳命されており、番組と契約を交わす際にも「素材の紛失」は多額の賠償金を支払うと契約書にも記載されているぐらいである。
「どうしました? 何か絵面のいいものでもあるのですか?」
「先に約束して下さい。今から見るものと聞いたことは口外しないと」
初対面の相手に「口外するな」と言われても困るものだ。それに口調も僅かに怒気が込められている。用件はもう終わっているだけに「興味ない」と帰ることも出来たのだが、ぼくは気になってしまい、芯弥と約束を交わすことにした。
「わっかりました。ビデオカメラはこの部屋に置いていきますね。この村でぼくが体験したことは山石井さんにロケハン内容として報告義務があるけど、この家で見たことは黙っておけばいいんだね?」
芯弥はぼくの言うそれを聞いて立ち上がった。ぼくもそれに追従する。
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