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「その遠くの親戚はこの家業のことは知ってたの?」
「知りませんよ。ほぼ他人で『存在だけは知っている』程度の関係です。高校卒業後は映像の専門学校に入って、それからダイダロス映像に入ったって流れです」
「成程。ダイダロスを辞めた(逃げた)後は、ここに帰ってきたんだ」
「祖父も父も亡くなったと聞いたので…… せめて線香でも上げておこうと。自分もこの状態なので剥製師は廃業になりますね」
「わかりました。この後はどうするおつもりで?」
「何も…… 考えてません……」と、芯弥が言った瞬間、外より村内放送が聞こえてきた。
〈五時になりました。涼風村役場がお知らせします〉と、アナウンスが流れた後にどこか物悲しい民謡調のメロディが流れてくる。
「ああ、もう五時ですね。ここの村の人、農家が多いんですよ。この放送で仕事終わりって感じです」
「じゃ、ぼくも旅館に帰ろうかな。商店街で飯も食べてきましょうかね」
ぼくは芯弥の家からお暇をさせてもらうことにした。玄関での別れ際、芯弥がぼくに尋ねてきた。
「あの、商店街で食事を取るおつもりですか?」
「どうしたの? どこか美味しいお店でも紹介してくれるの?」
「あ…… いえ…… 食堂や肉屋で食べるのはあまりお勧めしませんよ」
「ん? ここの肉とかマズかったりするの?」
「そういう訳じゃないんですけど…… ああ、ロケハン頑張って下さい。でもこの村、何にもない村なので…… ボツにした方が宜しいかと思いますよ?」
それを決めるのはぼくじゃなくて山石井だ。ぼくはただこのロケハンで収めた映像を観せて判断を仰ぐことしか出来ない。ぼくは芯弥の「遠回し」な言い方に違和感を覚え、山石井を始めとしたテレビ関係者に関わりたくないのだろうと察した。
「もし、ロケ来ることになったら連絡しますので。ああ、この家に関しては家主がマスコミ嫌いで取材拒否と言うことにしておきますよ」
「そうですか…… わかりました。帰りの道中、お気をつけて。後、なるべく早く…… いえ、今からでも村を出た方がいいかと……」
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