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「くったくった」
山菜定食と山菜そばを完食したぼくは腹をぽんぽんと押さえながら立ち上がった。山菜の揚げ物の胃もたれと、甘辛い出汁の山菜そばの汁を飲み干したことで十分に腹は膨れていた。
「おばちゃーん! おあいそ!」
勘定を済ませたぼくは店を後にしようとした。すると、先程手に取ろうとした漫画の本棚が目に入った。是非ともこの漫画について話を聞きたいと考えたのだが、出しなに漫画の話をするのも変だと思ったぼくは後日に回すことにした。
「おばちゃん、美味しかったよ。また来るわ」
「おや、さっき言うたことを聞いとらんかったんか? この村から出ていった方がいいって言ったつもりだよ?」
「あはは、つれないなぁ。次はお肉仕入れといてね? カツ丼とか食べたいな」
ぼくがこう言った瞬間、おばちゃんは急に距離を詰めてきた。後退りをしたぼくは店の外に出されてしまう。
「……ありがとうございました」
戸を閉められてしまった。そして、戸に施錠され、カーテンまでも閉められてしまう。
余所者を邪険に扱う類の方か…… この手の扱いは慣れている。包丁片手に追い出されないだけ、まだ優しい方だ。明日にでも謝りに行きたいところだが、この手の方は謝りに行っただけで益々邪険に扱われた上に関係が悪化するだけだ。
ぼくは余所者嫌いの村の洗礼に心痛めながら塒とする民宿ふるさとへと帰ることにした。
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