85人が本棚に入れています
本棚に追加
はいはい、言われなくても出ていきますよ。ぼくは肉屋を後にした。すると、入れ替わりで作業着姿の男性が肉屋に入ってきた。その男は外に出たぼくにも聞こえるぐらいの大声で注文を行った。
「肉屋の大将! コロッケとメンチカツを二個ずつ包んでくれ!」
「おう、いつものだね! 今日は大きめの肉たっぷりに作ってあるよ!」
「助かるわ! 息子が大好きなんだよ!」
同じ村人同士にはあんなにフレンドリーなのか。酸っぱい葡萄ではないが、蔑ろにされた上に何も売ってもらえなかったことで、ぼくは悔しく感じながら「どうせ大した味ではない」と、心の中で毒吐くのであった。
不愉快な思いをしながら商店街を歩いていると、村の案内板があることに気がついた。この涼風村はカーナビには勿論、最新版の地図帳にも記載されていない。ぼくはこの村の全景が分からずにいた。このままでは脳内で伊能忠敬のようにゼロから地図を作り村を歩く羽目になってしまう。こうして地図を見つけることが出来たのは幸運だ。ぼくは村の案内板に向かってスマートフォンのカメラを向けた。すると、案内板の下部に透明の小さなケースがつけられていることに気がついた。
「地図か」
案内板につけられたケースの中には地図が入っていた。何年も開けられていないのか、ケースの蓋には埃がかなり被っていた。ぼくが蓋を持ち上げただけで煙が辺りに舞い散る。
地図はA4サイズの紙がつづら折りになっているもので、地図としては小さなものだった。
村自体が小さいと考えれば、これで十分だろうか。ぼくは地図を鞄のポケットにねじ込んだ。
地図を見た感じ、この村の道路はそう複雑ではない。ぼくは少し遠回りをしてから民宿ふるさとへと戻ることにした。
多少の遠回りをしながら道を歩いていると、遠目に見える広場から子供達の遊ぶ声が聞こえてきた。声変わり前の子供の甲高い声がワーキャーと言った感じである。
このような田舎の子供達が遊んでいるだけでも十分に絵になる。夕日をバックに、遊ぶ子供達の映像を撮ることにしよう。涼風村がロケで採用された場合の締めの映像として使うのも面白い。
最初のコメントを投稿しよう!