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「飛んだ」奴の学歴も経歴もどうでもいい。問題は「涼風村立」だ。ぼくはこれまで取材クルーに混じり日本全国を飛び回って色々な村を訪れているが「涼風村」と言う村に聞き覚えがなかった。初めて聞く名前の村なのである。
個人情報の管理に問題があるとは思ったのだが、ぼくはその履歴書をシュレッダーにかけずに手元に持ち、涼風村について調べてみることにした。インターネットの検索、Googleマップの閲覧、国土地理院への問い合わせ…… 全てが梨の礫。全くと言っていい程に情報が得られないのである。ぼくは謎に満ちた「涼風村」の旨を企画書に纏め、山石井に提出してみたところ、地図にない村と言う点が琴線に触れたのか高評価を貰えたようで、満面の笑顔を向けられた。
「いいねぇ、面白いねぇ! 俺も若い頃は杉沢村探したの思い出すよ! 見つけたんだけど、単なる無関係の廃村でさぁ、当時のプロデューサーに『偽物見つけてくるな!』って思いっきりぶん殴られたわ! ホント人殴る奴ってクズだよなぁ? じゃ、ロケハン行こうか。ADさん? 任せていい?」
「えっと、誰かつけてくれますか?」
「君みたいなベテランなら一人でも大丈夫でしょ? ウチ、人足りないんだよね。最近はちょっと小突くだけですぐに飛びやがる。根性なしが多いなあ! これだからゆとり世代と氷河期世代は駄目だって言われるんだよ! あいつらのせいで日本終わるね。間違いなく」
ぼくは訝しがる目で山石井を眺めながら、コクリと頷いた。
「わっかりました。ちょっと遠いんで、二日か三日ぐらい暇を頂戴します」
このような訳で、ぼくは涼風村に行くことになったのだった……
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