4 山狩り

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4 山狩り

 疎らに立つ電信柱の街灯を頼りにぼくは闇夜に包まれた道をひた走っていた。しばらく全力で走り続け、息を切らしたところでぼくは一旦足を止めた。脳味噌が「これ以上走れば倒れる」とでも体に命令し、動きを止めさせたのだろう。両膝に手を当てて、肩で息をする程に体を揺らしていると、路端に立てられたスピーカーよりぼくの耳を劈くようなサイレンの音が聞こえてきた。 それから聞こえてきた声は秋元村長のものだった。芯弥はどうなったのだろうか? 殺されたか…… 懐柔されたか…… どちらの可能性もあるが、今のぼくにはそれを気にする余裕はない。 〈村長の秋元です。村の秘密が余所者に知れました。見つけ次第の捕縛をお願いします、捕縛が難しいようなら…… 即座に殺して下さい。以上です〉 涼風村の村民全員でぼくを殺しに来るということか! 殺人も村ぐるみで揉み消す腹心算(はらづもり)と来ている。今や、各テレビ局が制作している鬼ごっこのバラエティ番組でもここまではやらない! そもそも、捕まれば「死」の鬼ごっこなんかあってはならないものだ! ぼくは各種鬼ごっこ番組では「鬼」と「子」を撮影するカメラマンの補助を行った経験があるし、カメラマンそのものの経験もある。その要領がどこまで通じるかは分からないが「子」は兎に角コソコソとすること「鬼」は兎に角四方八方に目をつけることがうまくいくための要領であると、ぼくは撮影で学んでいる。今回は「子」故にコソコソすることが必須。ゴールは涼風第一小学校のグラウンド、そこに車が「無事」に置かれていることを祈るのみだ…… ぼくはズボンのポケットを漁り、車のキーがあることを確認した。 ぼくの車のキーは「キーレス式」だ。ドアの開け締めはキーのワンボタン、エンジンの始動はキーをキーシリンダーに挿し回さなくてはいけない。 そんな事を考えながらぼくは再び足を動かした。すると、街灯に照らされたバス停が見えてきた、それは、屋根も壁もトタン張りの休憩所を伴っており、昔ながらのバス停を思わせた。 「誰も、いないだろうな」 ぼくはそっと休憩所の中を覗き込んだ。中には誰もいない…… 今は腰を下ろせる場所があるだけでありがたい。ぼくはベンチにそっと腰を下ろした。 「ふぅ……」 ベンチに腰を下ろしながらも、自然に前傾姿勢になるところ、心身共に疲れて果てているのだろう。出来ることならばそのままベンチの上に横になり眠ってしまいたい。いや、このままの体勢でゆっくりと眠りたい。だが、それをすれば即座にあいつらに捕まってしまうだろう。そうなれば、起きた時には解剖台の上で横になっており、大根のように積み上げられた剥製加工済みの自分の手足を見ることになるだろう。いや、それすらもさせずに起きた時点で既に魂となり、剥製となった自分を俯瞰的に見る羽目になっていてもおかしくはない。
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