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「ぐっ!」
ぼくは間一髪のところで、振られた鋏を回避した。鋏の先端は薄いトタン壁を突き破り穴が開けられてしまった。その衝撃で休憩所全体がグラグラと揺れる。本気で殺す気で振りかぶったと言うことである。この女性店員は接客とは言え、優しくされていた。そんな人が本気で殺しにくることにショックを隠すことが出来ない。
このまま、休憩所の入口まで駆け抜けたいところだが、女性店員によってその道は塞がれていた。この休憩所は狭く、ベンチの前に人一人分のスペースしかないぐらいに細い。体を横にして隙間を通り抜けることも出来なくはないが、女性店員の鋏を潜り抜けなければならない。
この休憩所は屋根も壁もトタンだ。バス待ち中の最低限の雨風を凌ぐためだけの簡易的なものである。
先程の鋏で穴が空いた時もグラグラと揺れていた。ぼくは女性店員に背を向けた。その瞬間、女性店員は先程と同じように大きく鋏を振りかぶり、ぼくの背に向かって振り下ろした。ぼくはその刹那、足の裏を叩きつけるようにトタン壁を蹴り飛ばした。トタン壁は前に向かって倒れてしまった。それと共にトタン屋根も天から落ちてくる。ぼくはトタン壁を蹴った勢いで前に出ており、トタン屋根に潰されることはなかった。女性店員はトタン屋根に潰され、前のめりに倒れてしまっていた。頭と鋏を持った右手だけがトタン屋根から出ており、後の体の部分はトタン屋根に隠れてしまっていた。
「死んで…… ないよな?」
例え、これで死んでいても正当防衛が成り立つ。とは言え、死んでいたならば目覚めが悪い。ぼくは生死の確認を行うことにした。そっと女性店員の元へと近づくと、鋏を持った右手が急に持ちあがり、そのまま地面に鋏を突き立てた。あとゼロコンマ数秒でも早く前に進んでいたら、ぼくの足に鋏が突き立っていただろう。
「どうなってるんだよ……」
これ以上構う必要はない。ぼくは後退った、すると、女性店員は這うように前へ前へと進んできた。いくらトタン屋根が落ちてきたと言っても、あんな軽いもので下半身が潰れる訳がない。
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