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しかし、女性店員は上半身と下半身が分断されていた。上半身だけでぼくを追いかけてくるのである。上半身と下半身が分断されれば、切断面より内臓や血が出るだろう…… しかし、女性店員にはそれがなかった。上半身が動いた勢いで、僅かにトタン屋根がズレ、分断された下半身が見えたのだが、我が目を疑うものだった。内臓も血も出ておらず、年輪を思わせる木目調の切断面だったのである。ぼくはそれを以前に担当したファッション番組で見たことがある。マネキンを解体し、下半身のみにパンツを履かせたときの物撮りで見たマネキンの下半身そのものだったのである。
上半身はモゾモゾとぼくを殺さんがために動いている、下半身はマネキン…… この理解を超える光景にぼくはおかしくなったのかと考えた。その瞬間、女性店員は鋏を大きめの石に打ち付けてしまった。その勢いに乗り、顔面に鋏が刺さってしまう。それでも動きを止めない女性店員はぼくを殺さんと前へ前へと這いずる、その動きによって顔面に刺さった鋏がズレるように下へ下へと下りていく。徐々に徐々にではあるが顔の皮膚がを剥がれていくのである。顔の皮膚を剥がすなどという凄惨極める光景なぞ見たくはない、ぼくは目を背けそうになるが、顔の下にあったものを注視してしまった。
「マ…… マネキン……?」
女性店員の剥がれた皮膚の下はマネキンそのものだった。あの地下壕にて大量に置かれていたものと同じである。
「どうなってやがるんだ……?」
ぼくは逃げ出した。マネキンが生きた人間のように動くなんてありえない。もうイヤだ! こんな理解や想像を超えた場所なんかにはいられない! ぼくは走りに走った!
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