4 山狩り

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 やっとのことで辿り着いたのは涼風村分校前。一応、ゴールと定めた場所である。 さて、車はあるだろうか。ぼくはグラウンドに停車した車の行方を確認した。 「あった」 ぼくは車があることを確認し、安堵した。最悪の場合、ジャパンバッシングよろしくスレッジハンマーで車を破壊されていてもおかしくない状況だ。こうして車が健在であることを確認出来ただけでも安心だ。安堵しながらキーレスキーの解錠ボタンを押すと、ウェルカムライトが点灯した。 運転席に座り、キーシリンダーにキーレスキーを挿して回すと、激しいエンジン音が唸りをあげた。まさかと思うが、ここからカーチェイスなんて始まらないだろうな……? 村人が軽トラックの上から猟銃構えて銃を撃ってくるなんて、絵面こそアクション映画だが、実際にやろうものなら純然たる死と隣合わせのホラーだ。ぼくは道中の安全を祈りながらアクセルを踏み込んだ。 車が涼風村分校の校門から出ようとした時、一陣の突風が吹いた。 ぼくは車が横風で煽られて横転するかと思い、反射的にブレーキを踏んでしまった。思い切りブレーキを踏み、ハンドルに額をぶつけそうになると同時に、前方より「何か」が砕ける音が聞こえてきた。植木鉢のような陶器が砕ける音である。何かにぶつけてしまっただろうか? ぼくは正面をヘッドライトで照らしながら車から降りて確かめることにした。万が一何かが迫ってきた時、すぐに車に乗り込めるようにドアの施錠はしない。 「やらかしたかな?」 車の正面には二宮金次郎像が倒れていた。全身が砕け、バラバラとなっており見る影もない。車のどこかにぶつけたなら、凹みか何かがある筈だが、無い。つまり、車にはぶつけていないということになる。おそらく、先の突風で吹き飛ばされたのだろう。 銅像が吹き飛ぶ程の突風とは…… この二宮金次郎像も不幸なものだ。とは言え、進行方向にあっては車を出すことが出来ない。そのままタイヤで踏み越えて行くことも出来なくはなかったが、こんな罰当たりなことは出来ない。追跡者に追われていると言う非常時ではあるが、今は回りに誰もいないことが確認できており、とりあえずは「安全」だ。もし、校庭に追跡者がいたならば、ぼくだってどうしたかもわからないだろう…… ぼくは二宮金次郎像を横に除けておくことにした。その頭は半分ひび割れており、見るも無残なものとなっていた。そこから見えるものは…… 頭蓋骨だった。二宮金次郎像の大きさは各地によって誤差こそあるものの、そう大きくは作られていない、大体が小学校低学年から中学年くらいの児童と似たような大きさで作られていると聞く。その中から見える頭蓋骨も大体、そのぐらいの年齢の子供のものだろう。
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