4 山狩り

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「本当に、ごめんなさい。村をすぐに出ていくつもりだったんです、そうしたら、人が誰もいないところに出てしまって…… 人を探していたら地下壕に行く光が見えて…… 入ってしまっただけなんです」 「好奇心は猫を殺すって奴だな。諦めて貰おうか。おっと、この村の住人になって一生黙ってるなんてウソは通用しないぞ? 以前に秘密を知ったやつがいてだな…… 俺達みぃんな歓迎したんだよ、この村には若いやつが必要だからなぁ。ところがだ、その日の夜に車出して村から逃げようとしやがった」 「そ…… それで…… その人はどうなりました?」 「その日のうちに俺達でフクロにしたよ。その後は芯次郎に引き渡して剥製加工だ。今は土木作業員の格好させて『置いて』あるぜ? ピッケル持たせてな! 生前なにやってたか知らねぇやつはとりあえず土木作業員にすることにしてるそうだ」 ぼくは絶句してしまった。人の命どころか、その死体に対する尊厳も皆無。死んで尚、着せ替え人形のように扱われては、甲斐のない死に方ではないか。肉屋は続けた。 「剥製にすると『肉』や『内臓』を削ぎ落とすじゃないか。それらは全部俺の店に運ばれて来るんだ」 この先を聞きたくない。何と言うおぞましいことをするのだろうか。肉屋はまるで昨日の肉料理の感想を言うかのように軽く宣いだした。 「うちの店の一番人気のメニューはハンバーグだ。硬い肉でもミンチにしちまえば関係ないからな。入れ歯の爺さんから子供まで好評の一品(ひとしな)だ。お前みたいな余所者には勿体ないからな! 売らねえよ? ま、時に余所者を売る側になるけどな! そうそう、商店街の定食屋の『肉』の仕入先はウチだぜ? その肉な、俺が加工するんだ。(スジ)に合わせてスライスしたり、ミンチにしたり、肉をスライスして繋ぎ合わせてトンカツ用の肉っぽく見せたりな? ちょっと丸めにすれば唐揚げの肉っぽいんだぜ? そうそう、ミンチにしたものを乾かして油で揚げてお稲荷さんにしたこともあったなぁ? うめぇぞ?」 「て、定食屋のおばちゃんはそれを……?」 「気がついてねぇよ。俺はこの加工を曾爺さんの代からずっとやってるからな! まぁ、マタギが狩ってきた鹿肉や猪肉だと思わせておくのが幸せってもんだ。知らぬが仏ってやつだな! この村の肉は『日替わり』だからな? どの肉が当たりなんだろうな?」 頭が痛くなってきた。ぼくが食堂に入った時に食べたものは「山菜定食」と「山菜そば」だ。肉は一切入っていなかったことを安堵した、それに加え「焼いたもの」がないことも思い出し安堵した。何か一つでも焼いたものがあれば(ラード)のようにフライパンに敷いた可能性が高いと考えられる…… そうなれば…… ぼくは「一線」を超えてしまったことになる。揚げ物の油はちゃんと「植物油」の味がした…… 一人で切り盛りする定食屋のおばちゃんが(ラード)を濾過して、天ぷら油にする手間をかけたとは思えない。あれは植物油だと信じることにしよう。
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