4 山狩り

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コンコン…… まさか、焼けた筈の肉屋が再び起き上がったと言うのか? 念のため、火が消えた発炎筒を回収し、ハンマーとして使うつもりでポケットに入れてある。今度は窓ガラスごとハンマーを叩きつけ、そのマネキン頭を砕くしかないのだろうか。 ぼくは、ゆっくりゆっくりと顔を右に向けた。そこにあったのは意外な者の顔だった……  ぼくは民宿ふるさとのロビーのソファーで肩を落としながら座っていた。そう、ぼくは民宿ふるさとの主人である絹枝に助けられたのだ。いきなり、絹枝に車の窓ガラスを叩かれた時は驚いたのだが…… 彼女は両手を広げて「武器」を何も持っていないことを証明し「あなたを助けます」と何度も何度も言うものだから、車に乗せたのであった。 絹枝はぼくの車の助手席に座るなりに「私の民宿へ」と言った為に、民宿ふるさとへと戻ってきたのだった。 車は…… 民宿ふるさとの駐車場に停車していては流石に感づかれると思い、近くの路肩にそのまま放置中だ。  絹枝は民宿ふるさとに戻るなりに、どこかに電話をかけていた。ぼくは警戒心を覚えたのだが、絹枝が「ここにはいません、お役所の方にお車を走るのを見ました」と、正反対のことを言ったために信用に足ると考えた。このような訳で、若干ではあるが落ち着いたぼくはロビーに座っているのであった。 絹枝がぼくの前に立ち、問いかけてきた。 「どうやって、ここに来なすった?」 どうも何も、夕方前にここ(民宿ふるさと)を後にしてからは普通に車を走らせたとしか言いようがない。それを説明した瞬間、絹枝は急に顔を顰めた。 「もしかして、トンネルをお潜りになられましたか?」 「え? 逆側のインターに出ようと思ってトンネル潜りましたけど…… ダメでした?」 「あのトンネルは地元のモンでも使ぃせん。あの世とこの世を繋ぐと言われておる」 「え? そんなバカな」 「この点は私にもようはわからん。だけど、時折あのトンネルを潜っては帰れんくなって困るやつがおるのは確かだよ」 「涼風村を出るためにトンネルを潜ったら、涼風村に出たんですけど…… 例えば、グルって回れるぐらいに大きなトンネルになってて元に戻ってきたってことですか?」 「いいや、あのトンネルはちゃんと山を掘り進んで作った直線のものじゃよ。100メートルもない程の短いものじゃてな」 ぼくはあのトンネルを何十分もかけて潜り抜けている。そんなに短いトンネルであるわけがない。思わずに疑いの顔を浮かべてしまった。 「うーん、当時の村の若い衆が掘っとるでな。私もよく麦のおにぎりを持たされてトンネル工事の現場に届けとる。トンネルの長さに間違いはない。だが、出来たら出来たで使うモンはみぃんな潜ってはいなくなりおるし、帰ってこなくなる」 ぼくがそれを聞いたところで信じる訳がないのだが、こうなってしまった今となっては教えておいて欲しかったと不条理かつ恨めしげな目つきで絹枝を見てしまった。 絹枝は続けた。
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