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ぼくは絹枝の両肩を掴み、揺らしながら尋ねた。ぼくはやっとのことで手に入れた脱出の手がかりを前に完全に冷静さを失ってしまっていた。
「どうやったら出られるんですか!? 教えてください!」
「やめとくれ! やめとくれ! 痛い! 痛い!」
ぼくはハッとして、狼狽えながら絹枝の肩から手を離した。
「す…… すいません……」
「まぁええまぁええ、こんなところ来て冷静でいられる方が無理な話じゃてな。ここから出るには『神隠し』に遭えばいいんじゃてよ」
「はぁ…… 誂ってます?」と、言うぼくの口調は荒い。しかし、絹枝はぼくを宥めにかかるように諭した。
「いやいや、本当じゃよ。アンタさん、ここで『取材』をしてきたんだろ? 怪しい話の一つや二つは聞いたんじゃないのけ?」
この涼風村における『神隠し』は、人が消えることと、死体が消えることを言う。前者は芯太少年から聞き、後者は絹枝から聞いたことだ。ぼくは後者の意味と受け取り、誂われていると考えた。ならば、前者の意味と考えればどうだろうか。
「愛育園の先生から聞いたんだけど。あの神社、一人で行っちゃいけないの」
「それ。神隠しって言うんだよね。でも、一人で参拝するだけなら大丈夫。問題はその奥に入っちゃいけないってこと」
「奥? 御社があった後ろの林のことか?」
「うん…… 何人もいなくなってるんだって。服の切れ端や靴だけ残していなくなっちゃうの。大人も子供も関係ないの」
ぼくは芯太少年との話を思い出した。七歳までの子供が神社に行くと「七つまでは神のうち」として神が連れ去ってしまうとか、逢魔が時を過ぎると神社に神が降り立ち、禁足地たる神域へと姿を変えるなどと言う話は何度も聞いたことがある。
「神社の奥の林に行けってことですか? すぐに向かい側に通り抜けちゃいますよ?」
絹枝は軽く微笑んだ。そして、軽く頷いた。
「そうや、これでえぇ。あんな小さいお林さんなのに、入ったら誰も帰ってこねぇ。きっと、ここではない『もと』の場所にいけるけぇな」
他に方法がない以上は信用するしかないか。放置した車や、車の中に置いてあるノートパソコンやビデオカメラなど、考えることは色々とあったが、何よりも命だ。
次の目的地は芯中神社。確かこの民宿ふるさとからは近かった筈だ。ぼくは地図を開き位置の確認を行った。
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