おわりに

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「あの? 三年前の地震とは?」 「この地震で地盤沈下と山の土砂崩れが起こって、涼風村は沈んでしまったんだよ!」 「そんな馬鹿な! ぼくは確かに涼風村にいたんです!」 「大丈夫? 酒に酔ってない?」 どうやら、酔っぱらいだと思われているようだが…… 生憎とぼくは素面(シラフ)だ。このまま話を続け薬物中毒による幻覚などを疑われてはたまったものではない。別に尿検査を断る理由はないが、こうして疑われるのも癪に障る。ここまで言っておいておかしいとは思うが、引き上げることにしよう。 「すいません、最近徹夜続きでイヤな夢見てたみたいです。お手数かけました」 「テレビの人は徹夜ばっかりしてるからねぇ…… 大変でしたね。本来なら公務執行妨害になってもおかしくないよ! 警察より労働基準監督署に行く必要があるのでは? 本当に大変なら電話してあげるよ?」 「あ…… いえ…… 大丈夫です……」 ぼくは恥ずかしい思いだけをして警察署を後にした。それにしても「涼風村がもうない」とはどういうことなのだろうか。車の中で涼風村にいた時のことを思い出してみたのだが、確かに村民こそ少ないものの、村は生きていた。警察官の言う事が本当ならば、涼風村は廃村と化している筈だ。一体どうなっているんだと思いながら、車載時計を見ると、夜の九時を回っていた。 「とりあえず、宿を取るか。今から東京に車走らせる気力は無い……」 ぼくは近くの旅館に宿を取ることにした。その旅館は、夜間の飛び込みの客にもかかわらずにぼくを歓迎してくれた。素泊まりのつもりだったのだが、有り合わせのもので料理も出してくれた。ありがたいとしか言いようがない。 入浴を終えたぼくはスマートフォンに着信が入っていることに気がついた。ダイダロス映像からである。 「会社に報告しとかないとな」 部屋の広縁に座り、ダイダロス映像に電話をかけると、事務の織田さんが出た。受話器越しに嵐のように鳴り響くコール音が聞こえてくる。 「もしもし、ADさん? ちょっと今電話対応で大変だからまた後でかけ直して!」 「あ、あの…… ロケハンの報告の方を……」 「ごめん、今無理!」 電話を切られてしまった。今は夜の十時前だと言うのに、電話対応が忙しいとはどういうことなのだろうか。まぁ、明日帰った後に報告ついでにその話を聞けばいいか…… ぼくはそんなことを考えながら広縁のテーブルの上に置いたノートパソコンを立ち上げた。ロケハンで手に入れた「素材」の確認のためである。
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